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頭木:でも、入院生活が長くなるとだんだん気になってくるみたいで。「病気で気が滅入りがちなときだからこそこういう本がいいんですよ」なんて言ってたら、「俺はビジネス本しか読まない」とか言ってた人が「ちょっと貸して」って。ドストエフスキーの本なんか登場人物が全員悩んでいて、確かにくどくどした本なんですが、入院中というのは本人の頭もくどくどしています。「この先どうなるんだろう……」と見通しの立たない日々を送っているときだからこそ、くどくどした文章がすごくハマる。読書経験が全然ないような人が『カラマーゾフの兄弟』に熱中するようになり、やがて病室内の6人が全員ドストエフスキーを読んでいるような状況になりました。ときにはほかの病室からも借りに来る人がいて、看護師さんもビックリしていました。
──なるほど、それが『絶望読書』を書かれるきっかけ的な体験だったわけですね。
頭木:お見舞い中にもらうのってポジティブな本ばかりなんですよ。でも、「明るく前向きな気持ちを持てば病気も治る!」とか言われたって余計暗くなりますよね。「未来を信じていれば何でも叶う」なんて前向きなメッセージ、病気がなかなか治らない状況のときには読めないですよ。むしろ「明るい世界と縁遠いところまで落ちちゃったな……」という気分になるだけです。そういうときこそ、カフカやドストエフスキーといったネガティブな本が救いになるわけです。例えば失恋したときに悲しい歌を聞きたくなることがあると思うんですが、これはあながち間違いではなく、「アリストテレスの同質効果」とも呼ばれる重要な行為なんです。
「太宰をわかってるのは自分だけ」は正しい読み方!?
──いったん悲しみに浸りきることが大切だと。
頭木:もちろん、「悲しいときこそ明るい本や歌に触れよう」という考えもありますが、それは立ち直りの段階に入ってからの話だと思います。世の中には絶望した人を励ます本や、絶望からの立ち直り方を指南する本は多々ありますが、「絶望の最中をどう生きるか」という、“立ち直る前段階の過ごし方”に言及した本はこれまでなかった。絶望というと、「底までズドーンと落ちて、そこから右肩上がりに回復していく」というイメージがあり、絶望した当人もまわりの人たちもそう思っているケースが多々あるわけですが……実際の絶望ってそうじゃないんですよ。
──それはどういうことですか?
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