学習塾で取る夕食を健全な食事に切り替えるには、学習塾の経営者にアプローチすることだ。大手学習塾の日能研に的を絞った椎名さんは、同社の高木幹夫社長に面会するルートを探し始めた。「日能研の社長、知らない?」。知人たちに尋ね回ったところ、4人目の知人が、高木氏のキャンプ仲間を知っていることがわかった。
高木氏との面会が実現したのは、退職して4カ月目の7月。弁当の試作品と「食育メモ」も持参し、思いとプランを説明したところ、椎名さんの真意は高木氏に届いた。凛とした佇まいと優れた説明能力も、好印象を与えたのではないか。
「生徒に役に立つことなら手間がかかってもなんでも実行すると言われ、受け入れていただきました。しかも、弁当の配達事業を長く続けてほしいので、売上を安定させるために日能研以外の学習塾に営業してもよいと言われました」(椎名さん)
1週間後、高木氏は冬期講習から弁当の注文を受け付けることを各教室に伝達してくれた。
CSV経営の実践
小学校の栄養士時代に、給食メニューを和食に切り替えた「絶対的な正義」は、事業化へと向う。創業資金は自己資金200万円に日本政策金融公庫から500万円を借り入れ、700万円を用意した。8月には、JR中野駅から徒歩10分の一画にある居酒屋の居抜き物件を取得し、厨房設備を整えた。そして11月にFCNを設立し、日能研の3教室から配達をスタートさせたのだった。
FCNの事業には、小学校勤務時に取引していた練馬区の農家や鮮魚店、精肉店なども賛同してくれているという。食材原価率を25%と低めに抑えられているのも、仕入先の協力があるからだ。椎名さんは「“子供たちのためになるなら”という理由で、良い食材を安く提供してくださっています。和食離れを防ぐことも、賛同を得られている理由です」と声を弾ませる。
リアンプロジェクト最優秀賞の獲得によって、FCNは多くのメディアの目に留まり、テレビ、全国紙、専門誌などで紹介されるようになる。新規取引のアプローチも入った。学童保育向けおやつの企画販売会社から声がかかり、同社を経由して学童保育施設へ手づくりおやつを配達している。
この夏には自由が丘に2号店を開設し、配達先を拡大してゆく。日能研以外の大手学習塾にも営業をかけたが、「食事のできる休憩時間の確保はモッタイナイ」「食事に気を配るのは保護者の問題」などの理由で取引には至っていない。