数年前から、郵便局、コンビニエンスストア、新聞販売店などが自治体の要請を受けて、高齢者世帯の見守り活動や生活支援に関与するようになった。地域包括支援センターや民生委員だけではカバーできず、自治体は事業者のフットワークに頼らざるをえなくなったのだ。
高齢化の急速な進行によるこうした動きを、以前から先取りしていた企業がある。家電販売店「でんかのヤマグチ」を運営するヤマグチ(東京都町田市)社長の山口勉氏は20年も前に、無償の生活支援を実行に移した。町田市と旧相模原市の高齢者世帯の間では「遠くの家族よりも、近くのヤマグチ」と評判が立っているという。2012年度には経済産業省から「おもてなし経営企業」に選定された。
行政とはかかわらずに、独自の路線で取り組んできたことがブレを発生させず、しかも政治的な思惑にも影響されなかったことが、確かな信頼を獲得できた要因である。これは山口氏の姿勢に由来する。長年にわたる同社の実績や、過去4年だけでもテレビ番組で28回も取り上げられたゆえの知名度から、山口氏には経営者団体や行政関連団体など公職への就任要請が相次いだ。しかし、山口氏はそのすべてを断ってきた。
「世の中には、公職の肩書きを経歴にいろいろと並べる人もいますよね」
山口氏はそれ以上を口にしない。そんな同氏が実直に経営に徹し続けた結果、ヤマグチは今年9月期決算で20期連続の黒字を達成する見通しだ。店舗は町田駅から車で7~8分のロードサイドに1店舗のみ。1階の家電売場には、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、テレビなど生活家電を中心にパナソニック製品が品揃えされ、パソコンやスマートフォンは陳列されていない。
2階は売上高の2割を占めるリフォームのショールームになっている。陣容は正社員37人・パートタイマー10人で、売上高は10億円弱だが、目を引くのは粗利益率である。40%を出し続けている。
なぜ、これだけの数字を出せるのか。それは、粗利益率を高めなければならない事情があったからだ。
「利は売価にあり」
話は20年前にさかのぼる。当時の粗利益率は業界平均の25%だった。ところが大型家電量販店が町田市にも進出し、同店と町田駅までの約1.5キロメートルのエリアに6店舗がオープンする。量販店と同じ安売り商法の土俵に乗ったら駆逐されてしまうが、販売量が侵食される事態を想定すれば、粗利益率を高める以外にない。そう判断して、向こう10年で25%から35%に高める目標を定めたところ、8年で35.8%にまで向上した。