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サンリオ、危機と迷走…創業者の孫31歳で社長昇格、取締役の母親が補佐する“閉じた経営”

文=有森隆/ジャーナリスト
サンリオ、危機と迷走…創業者の孫31歳で社長昇格、取締役の母親が補佐する“閉じた経営”の画像1
サンリオピューロランド(「Wikipedia」より/Kakidai)

 サンリオは辻朋邦専務(31)が7月1日付で社長に昇格する。創業者の辻信太郎社長(92)は代表権のある会長に就く。信太郎氏が引き続き経営の実権を握る体制は不変。社長交代は1960年の創業以来、初めてのことだ。

「創業者の孫の新社長ではコロナ禍の経営の立て直しは無理だろう」(関係者)

 6月12日に都内で開いた社長就任会見では、サンリオのキャラクター商品が新社長の前にドンと飾られていた。

「経営の正念場でのトップ交代の会見にキャラクターが同席する。危機感が欠如している表れ」(外資系証券会社のアナリスト)

 サンリオが6月12日に発表した2020年3月期の連結決算は、最終利益が19年同期比95.1%減の1億9100万円だった。新型コロナウイルス感染拡大の影響でキャラクターグッズなどの販売が落ち込んだ。テーマパークのサンリオピューロランドの臨時休園や有価証券評価損などで特別損失を25億円計上したのが打撃となった。売上高は前期比6.5%減の552億円。営業利益は56%減の21億円だった。

 サンリオは山梨県の絹製品を販売する外郭団体の山梨シルクセンターを株式会社化して、辻信太郎が社長に就いた。1973年、社名をサンリオに変更した。スペイン語で「聖なる河」を意味する“San Rio”に由来する。

 1974年11月、ハローキティが誕生。人気キャラクターに大化けし、サンリオに急成長をもたらした。82年に東証2部に上場、84年に東証1部に昇格した。90年代後半にサンリオは黄金期を迎える。女子高生の間でハローキティのグッズを買い集めて自室に飾る“キティラー”現象が巻き起こり、爆発的に売れた。99年3月期の売上高は1500億円、営業利益は180億円に達した。売り上げは20年3月期の、およそ3倍、営業利益は8.5倍である。だが、ブームはうつろいやすい。2000年代、サンリオは冬の時代を迎える。

 02年10月、信太郎の長男、邦彦が副社長に就いた。北米で物品販売からハローキティのライセンス収入に依拠するビジネスモデルに大転換した。ハローキティの商標使用権を他社に供与してロイヤリティ(使用料)を得る。物販に比べて売り上げは減るが、売り上げイコール利益となるから利益率は高い。4期連続で営業増益を達成。14年3月期の営業利益は210億円。ロイヤリティ収入は349億円を記録、全社売り上げの45%を占めた。サンリオはライセンスビジネスで稼ぐ企業に変身した。

不可解だった“先祖返り”

 サンリオに悲劇が襲う。13年11月19日、海外事業担当副社長の邦彦が出張先の米ロサンゼルスで急逝した。邦彦が社長の椅子を引き継ぐことは既定路線だった。邦彦の死が、社内に与えた衝撃は大きく、ここからサンリオの迷走が始まる。

「販売を重視し、ライセンスビジネスでない方向に軸足を置く」。14年5月、信太郎はアナリスト向けの決算説明会でこう宣言した。市場関係者は信太郎の発言に首をかしげた。ドル箱に育ったライセンスビジネスから、元のグッズ販売会社に戻るという“先祖返り”だったからである。信太郎の方針で物販が強化され、ライセンスビジネスは後方に追いやられた。16年6月の株主総会で信太郎の孫、朋邦が取締役に昇格し、信太郎は孫を後継者に据えた。

 朋邦は慶應義塾大学卒。17年、ナンバー2の専務になった。母親の辻友子が取締役として朋邦を補佐する体制は今後も続くのか。

 信太郎の路線変更は完全に失敗した。営業利益は210億円をピークに下がり続け、20年3月期には21億円に急降下した。期中の営業利益の見通しは40億円だったから、最終的に半減したことになる。

 朋邦はハローキティをハリウッドで映画化する構想を持っている。米ワーナー・ブラザーズによって全世界に配給する計画だったが、「コロナ禍で実現は不透明になった」(関係者)といわれている。実写になるのかCGアニメーションになるのかも明らかになっていない。映画のヒットをテコに、関連グッズの販売にドライブを掛けたいと朋邦は考えているのだろう。

 信太郎は長男の邦彦を失ったことで、すべてが狂った。路線転換に失敗したにもかかわらず、サンリオを辻一族の会社として継続させることに執念を燃やした。そして、朋邦が社長に就任する。社長を取締役の母親が補佐する体制が社会に開かれた会社といえるのだろうか。朋邦を強力に支える経営体制が構築できるとは思えない。

(文=有森隆/ジャーナリスト、一部敬称略)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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