8月5日より、東京都内4カ所の乗り場で実証実験が行われている「初乗り410円タクシー」。現行の「2キロ730円」から「1.059キロ410円」となる初乗り運賃引き下げは、「普段タクシーを使わない人たち」の需要を増やし、実車率を高める目的で行われている。
例えば、雨が降った場合、コンビニエンスストアで500円の傘を買うよりもタクシーに乗ったほうが安くなるわけで、乗客にとっては、もちろんありがたい。同じく、タクシー会社も「売り上げが上がる」と期待しているはずだ。ただし、「諸手を挙げて賛成」とはいかないのが、ほかならぬタクシードライバーたちだ。
タクシーの営業形態は、大きく分けると「流し」と「付け待ち」に分けられる。流しとは、文字通り街を流して乗客を拾う営業手段で、この手法を主とするドライバーにとっては、410円だろうと手が挙がるのはウェルカム。空車時間が縮まり、売り上げが上がるのは明白だからだ。
逆に、付け待ち専門のドライバーにとっては「痛しかゆし」だ。付け待ちとは、ホテルや駅の前などに「付けている」タクシーである。
「暇な日など、駅で1時間待つのはザラだけど、そんな日に410円のお客を乗せたら、その1時間の時給はいくらだと思う? 205円だよ。コンビニのバイト以下になっちゃうよ。近い将来、初乗り410円が主流になるのはかまわないけど、駅に専用乗り場を設けてくれないと困るよ」(都内の付け待ち専門ドライバー)
「専用乗り場でなければ、乗れないようにしてほしい」というわけだ。確かに、この声も一理あるが、都内各駅のターミナルすべてに専用乗り場を設けることなどできるだろうか。
また現在、銀座5丁目から8丁目の区域は平日夜10時~1時は専用乗り場以外で乗客を拾うことができない「乗車禁止地区」である。「長距離客の多い夜の銀座で、別の店に行く際の足代わりにされそうだね。730円だってカチンとくるのに、410円なんか乗せたくないよ」というドライバーもいた。
別のドライバーは「普段乗らない若い人が乗るのはかまわないけど、中には“運ちゃん”呼ばわりするのもいるんだよね。乗客にもマナーが必要だけど、運賃引き下げによってマナー知らずの乗客が増えるのは嫌だね」と語る。
つまり、運賃引き下げによって新たな需要を見込んでも、タクシードライバーと乗客とのトラブルは確実に増えると思われるのだ。そのしわ寄せは、もちろん現場のドライバーに行く。タクシー会社は、「トラブルが起きたら、できる限り自分たちで解決しろ」というスタンスだからだ。