終身雇用制と移民制限、経済成長の阻害要因…金銭解決による正社員解雇制度は不可欠
いきなり移民政策の導入は難しいと思われるため、外国人留学生を大量に受け入れる取り組みの強化が将来の移民政策の突破口を開くと考えられる。日本政府は以前から留学生30万人計画という目標を掲げているが、日本の外国人留学生数は2015年時点で20万人にとどまっている。
一方、オーストラリア等では外国人留学生の大量受け入れによる経済活性化に成功している。特に同国は、地方に留学すると移住ビザの発給要件を緩和する等の優遇措置をして地方創生などにも貢献している。従って、日本でもこうした事例を参考に、外国人留学生の増加と将来的な移民政策の導入といった方向にかじを切っていく必要があるのではないかと考える。
就業構造の転換が必須
女性の活躍も重要である。2015年の就業希望の非労働力人口を性別で見ると、全体の4分の3が女性である。そして、女性の就業希望非労働力人口を要因別で分けてみると、最大の要因は出産・育児となっており、この要因だけで100万人近くの就業希望非労働力人口が存在する。従って、いかに出産・育児をしながら働きやすい環境を整備するかが喫緊の課題である。
そこで、これまでの待機児童と保育所の定員の推移を見ると、定員数の増加は加速しているが、それを上回るかたちで女性の社会進出が進み、結果的に待機児童数が増えてしまっている状況がうかがえる。従って、人材・インフラ面も含めて待機児童を解消することが重要な政策になると考えられる。
また、そもそも女性だけではなく、高齢者や外国人も含めて日本の労働市場は参入が難しいことも労働力人口増加の制約となっている可能性がある。そして、その根本にあるのが、新卒一括採用、年功序列、定年制を象徴とした、同じ会社で長く働けば長く働くほど恩恵が受けやすいという就業構造であると筆者は考えており、この部分を段階的に変えていかなければ日本経済の成長持続は危うい。
実際、OECD諸国の勤続10年以上の労働者割合と潜在成長率の相関をとると、明確な負の相関関係がある。すなわち、労働市場の流動性が高い国ほど潜在成長率が高くなりやすいことを意味している。そして、労働市場の流動化を促すうえで象徴的な制度改正になると期待されるのが正社員解雇の金銭解決や脱時間給制度であるが、残念ながら安倍政権が打ち出した「働き方改革」では踏み込んでいない。従って、こうした労働市場の流動化を促す政策に一刻も早く踏み込むことがアベノミクスの喫緊の課題といえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)