日本企業では一般事務は「仕事(ジョブ)」ではなかった?
昔から「日本のホワイトカラーの生産性は低い」とよくいわれてきたが、オフィスワークの生産性を正直に、緻密に計算したら、経験が少ない若い社員などは労働の価値に見合う賃金が法定の最低賃金になってしまうようなケースもあり得る。それに該当する職種が、雇用市場で最も人気があり、つきたがる人が多くて競争率最高の「一般事務」だというのが、なんとも悩ましい。
これは日本独特の企業風土に根ざしている。「一般事務」のオフィスワークとはそもそも、純粋な意味で報酬に見合った成果を求められる「仕事(ジョブ)」ではなかった。新卒で採用した正社員にはとりあえずその仕事をさせておき、研修を受けさせ、資格も取らせながら、上司が人材の良し悪しを見極め、将来の幹部候補生を選抜する場だった。
そのように日本企業にとって一般事務という職種は、特に大企業の男性ホワイトカラーにとっては生産性を度外視して「幹部候補生の候補」がやってきた仕事だから、正社員の中途採用の求人を出したりしない。そのため需給ギャップが激しくなる。
欧米企業ではたいていの場合、幹部候補生は採用時から別コースで、一般事務を経験するとしても何年もやったりしない。すぐに管理職になりそのキャリアを積む。それは「オランダモデル」のオランダでも同様だ。一般事務は一般事務で「オフィスワーク」という一つの「ジョブ」になっており、活発に中途採用を行っている。女性を中心に人気の職種だが、日本ほど需給ギャップはひどくない。オフィスワーカーは、たとえば企業会計や秘書実務のスキルを身につけたり資格を取ったりして、より高い報酬が得られるジョブにステップアップすることを目指す。
また、オランダのようにフルタイムとパートタイムの待遇を同じにするといっても、日本で正社員とパートの待遇をまったく同じにしようとしたら、経営者に対して相当な意識改革を強いることになるだろう。
そのように欧米と日本では「働く」ことにまつわる事情が異なるので、オランダの制度をそのまま日本に導入できない。だが、現状のままでいいはずはない。
意識改革は経営者にも、働く者にも必要
安倍内閣は「働き方改革」と盛んに言っているが、それを問う前に「正社員になりたくてもなれない」「希望の職種につきたくてもつけない」という雇用の現状の改善のほうが先なのではないか。その第一歩として、雇用市場で「新卒」「経験」「資格」をことさら重視する経営者の意識改革が求められてくるだろう。