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米山秀隆「不動産の真実」

激増する空き家、「税金で撤去」問題が深刻化…あらかじめ固定資産税に上乗せも検討要

文=米山秀隆/富士通総研主席研究員
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 実際、これまで自治体は、各種のインセンティブを通じて撤去を促してきた。もっとも多く撤去費を補助している自治体は広島県呉市で、2015年度までに455件の補助を実施した(1件当たり上限は30万円)。呉市は斜面が多く撤去が進みにくいため、補助の仕組みを設けた。補助額は多くなかったため、当初は効果が出るかどうかわからなかった。

 しかし結果として、これまで処分に悩んできた所有者が、空き家の撤去に踏み切るきっかけとなった。呉市では、地元の呉信用金庫などが500万円までの解体支援ローンの商品を提供しており、官民の資金支援で撤去が進んだ。仮に455件が代執行となれば、自治体の対応能力を超える。

 このほか、土地建物を市に寄付する条件で、空き家の公費による撤去を進めた自治体もある(長崎市など)。また、空き家の建っていた土地を一定期間公共利用することを条件に撤去費を補助し、公共利用の期間の固定資産税を免除する仕組みを設けた自治体もある(福井県越前町など)。

 こうしたさまざまなかたちの公費投入の仕組みは、自治体がそれぞれの事情によって講じたものである。ただし、公費投入にはモラルハザードの問題がある。最初から支援を受けられるとわかっていたら、誰も自己負担で撤去しなくなる。自治体としては、あくまでも自主的撤去を原則とし、公費投入に踏み切る場合は、地域にとって有効な手法を選ぶかたちで支援しようとしている。

相続放棄のケース

 16年3月31日時点で、空家法に基づく措置の実績は、指導・助言が168自治体2,895件、勧告が25自治体57件、命令が3自治体4件、代執行が1自治体1件となっている(国土交通省調べ)。所有者がわかっているケースの代執行は1件にとどまっているが、所有者がわからない場合の略式代執行は8自治体8件にのぼっている。自治体は、すでに事態が切迫していた所有者不明物件について、略式代執行で撤去を急いだことを示している。所有者がわからないケースは、費用は回収できず、公費投入となる。

 一方、相続放棄されたケースでは、次の管理者が出てくるまでの間、相続人の管理責任は残る。しかし、管理者が出てくるのは、たとえば自治体が相続財産管理人を選任し、処分するようなケースである。費用がかかるため、こうした措置を取ることは限られる。相続放棄された物件が、特定空家に認定された場合は、相続人に対しては指導・助言、勧告まではできるが、それ以上の措置はできない。そこで、撤去の必要が生じた場合は略式代執行になるが、この場合も公費投入になる。相続放棄は、今後ますます増えていくと予想される。

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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