7月、神奈川県相模原市の障害者施設で19人が殺害された事件は記憶に新しい。本事件の報道においては、一般の殺人事件とは異なる点があった。それは、被害者はすべて匿名扱いになっていた点である。その理由について、入所していた弟を亡くした女性は、複雑な思いを次のようなメッセージとして出している。
「この国には優生思想的な風潮が根強くあり、すべての命は存在するだけで価値があるということが当たり前ではないので、とても公表することはできません」
すべての人に等しく人権があるという自明なことが、この言葉で大きく揺らいだような不安を持った人も少なくないだろう。
日本には「障害者雇用促進法」という法律があり、企業や公的機関は募集・採用・賃金・教育訓練・福利厚生・その他の待遇について、障害者であることを理由に不当な差別的取扱いをしてはならない、という厳然とした決まりがある。
さらに、事業者は障害者を雇用することが義務づけられている。民間企業の場合、法定雇用率は2%であるから、単純計算すれば、従業員を50人以上雇用している企業は、身体障害者または知的障害者を1人以上雇用しなければならない決まりだ。法定雇用率に満たない事業主に対しては行政指導がなされるほか、従業員数100名超の会社の場合、不足1人当たり月額5万円の納付金を支払わなければならない。
一方で障害者雇用にあたっては、職場環境の整備、特別の雇用管理等が必要となるため、雇用率を達成している事業主に対しては超過1人当たり月額2万7000円の調整金が支給される。さらに、常時労働者100人以下の中小企業で、障害者を全体の4%または6名のいずれか多いほうの数を超えて雇用している会社には、報奨金として超過1人当たり月額2万1000円が支給される決まりになっている。
ここまで法律で明文化されていて、公的なサポートも行われているはずの障害者雇用だが、全体でみればまだ法定雇用率は達成できていないのが現状だ。2015年度の集計で、雇用障害者数、実雇用率共に過去最高を更新してはいるものの、実雇用率は1.88%。法定雇用率達成企業の割合は 47.2%にとどまっている。
さらに実際に働く障害者の観点からみれば、「雇用されること」以上に「安心して働き続けられること」が重要だ。しかし、雇用率をいわば数字という「点」で捉える企業と、就業後から新たなキャリアが「線」のごとくスタートする障害者では立場が異なり、それが根深い問題になっていることはあまり知られていない。