大手企業でもハラスメント行為
健常者として一般企業で勤務していたAさんは、仕事の指示などを一度聞いただけではなかなか覚えられず、同じことを何度も質問することがしばしばであった。これまでの職場では上司や先輩から「一度で覚えるように」と指導を受けることもあった。
Aさん自身はそのことを「物覚えが悪いなあ」程度にしか考えていなかったのだが、とある診断がきっかけで、自分自身が「軽度の発達障害」であることが判明した。ワーキングメモリといわれる脳領域の障害によって、短時間で新しい情報を記憶することが難しい発達障害の一種と診断された。Aさんが35歳のときのことである。
Aさんはその診断を受けて障害者手帳を取得し、障害者雇用の枠で大手企業B社に転職した。同社はこれまでも障害者を受け入れている実績があったことから、Aさんは「障害者の扱いに慣れた会社なのだろう」と期待して入社した。
とはいえAさん自身も、障害者雇用枠での入社となれば、他の同僚から色眼鏡で見られる可能性はあるだろうと考え、相応の覚悟はしていた。しかし、実際に起きたハラスメントは、Aさんの想像をはるかに超えていた。
Aさんは契約社員として、身体に障害を持った人と一緒に10名程度の部署に配属になった。しかし入社直後から、先輩社員Cさんから継続的なハラスメントを受けることになった。
Cさんは日常的に「健常者」「障害者」「正社員」「非正規」という言葉を用い、「あなたたちと私は違う」とわざわざ口に出し、「正社員と非正規は違う」「中途採用の人は変わってるわね」など、Aさんたちを見下すような言いかたをしていた。
また、仕事に不慣れなAさんに対し、「わたしは仕事が早いから、おほほ……」などとバカにした態度をとったり、Aさんが風邪で休んだときには、「うちは障害者が2人いて、休みがちで危ういので」などと内線電話で話したりしていた。さらにCさんは、しばしば差別的な言葉を使うこともあり、あまりのモラルのなさにAさんは驚いたという。
通報すると一方的に契約期間変更
周囲の社員もCさんによるハラスメント発言は認識していたはずだが、社内で誰からも何も注意されることはなかった。日常的に心ない言葉を浴びせかけられることや、正規職員が仕事をせず居眠りしていても注意されないのに、障害のある雇用者をこき使うという職場環境に悩み続けたAさんは精神疾患となり、休職を余儀なくされた。