リスク要因が増えるなかでも世界経済が大きな混乱に陥らなかったのは、米国経済が緩やかな景気回復を続けてきたからだ。世界経済は米国経済の動向に依存している。その米国の景気回復も、どこかでピークを迎えるだろう。2009年6月に米国経済は景気の底を打ち、7年超の景気拡張を歩んでいる。
過去の景気循環を振り返ると、平均的な景気拡張期間は約5年だ。景気回復の強さを考える上で重要な企業の設備投資も本年4~6月期まで3四半期連続でマイナスだ。労働生産性も落ち込んでおり、雇用の改善が企業の利益率悪化につながるかもしれない。
こうした状況は、徐々に米国の景気回復の勢い=モメンタムが剥落していることを示す。在米エコノミストのなかには米国経済がピークアウトする確率を、17年が3割程度、18年は7~8割程度と読む者もいるようだ。
米国の金利引き上げリスク
徐々に世界経済を取り巻くリスク要因が増え、先行きへの懸念が高まるなか、FRBの利上げは思わぬ影響をもたらす可能性がある。
まず、新興国の金融市場には注意が必要だ。年初の人民元急落などは新興国経済に対する懸念を高め、多くの投資家がリスク回避に動いた。その状況のなか、FRBは慎重に金融政策を進める姿勢を強調した。国際経済、金融市場に対する懸念を示し、利上げを急がない姿勢を強調したのである。
そうしたFRBの慎重さは投資家を安心させたはずだ。そして、多くの投資家は「年内利上げは困難であり、低金利環境が続く」とまで考えた。その結果、世界的な金利低下が進むなか、少しでも収益を確保しようとの考えが強くなり、新興国に資金が流入した。
6月、予想外に英国がEU離脱を決め、市場は大きく混乱した。しかし、短期間で新興国を中心に世界の市場は落ち着きを取り戻した。この背景にも低金利による投資家心理のサポートがあったはずだ。
低金利への期待が根強いなかで、8月下旬、フィッシャー副議長らFRB関係者が一様に利上げを支持したことには相応のインパクトがあった。投資家がリスクテイクに慎重になり、新興国通貨がドルに対して下落したのは当然だろう。
それでも、市場参加者はまだら模様ともいえる米国の経済指標などを理由に、利上げは容易ではないと考えている。もしFRBが利上げに踏み切れば、市場にはショックが走り新興国市場を中心に混乱が生じる可能性がある。