新浪氏はコンビニの経営に興味を失ったのか、安倍晋三政権の誕生とともに財界活動に軸足を移した。13年1月に日本経済再生本部の産業競争力会議メンバー、14年9月には経済財政諮問会議の民間議員となり、政権中枢に入り込んだ。古巣の三菱商事の首脳から「財界活動は10年早い」と危惧する声が上がったほどだ。
これ以降、新浪氏は経営の花火師の役割を演じ続けることになる。新浪氏が後継者に選んだのは玉塚元一氏だ。玉塚氏は、ユニクロを展開するファーストリテイリングの社長を務めたが、柳井正会長兼社長のお眼鏡にかなわず社長を解任された。その後ローソン入りし、14年5月に社長になった。
ローソンはコンビニ業界2位の座が大きく揺らいだ。今年9月1日、ファミリーマートとサークルKサンクスを持つユニーグループ・ホールディングスが経営統合し、店舗数や国内売上高でローソンを抜いたからだ。3位に転落したローソンを再浮上させるために三菱商事が打った策が、ローソンを子会社にすることだった。
三菱商事がローソンを直接経営することになる
子会社化に向けて重要な伏線があった。ローソンは16年3月、三菱商事出身で副社長の竹増貞信氏が6月1日付で社長兼最高執行責任者(COO)に昇格し、玉塚氏が会長兼CEOに就く人事を発表した。
当時はトップ交代の狙いがはっきりしなかったが、今では三菱商事の新戦略「事業投資から事業経営へ」のシフトと連動したものだったことが、はっきりとわかる。
それまで三菱商事はハンズオフの立場から、出資先のローソンを直接経営することから距離を置いていた。新浪氏から玉塚氏への社長交代についても、三菱商事の首脳陣は玉塚氏を経営トップの器としては評価していなかったが、新浪氏が提案した人事案を受け入れた。
三菱商事は新しい戦略に基づき、投資先企業の経営に深く関与する方向へ舵を切り、ローソンを直接経営する。ローソンの首脳人事も三菱商事が決める。玉塚氏に代わって竹増氏が社長に就任したのは、その具体的な表れだった。
竹増氏は14年に三菱商事からローソンに副社長として派遣された。三菱商事の畜産部門出身で、三菱商事社長に就任した垣内氏とは畜産部門で13年間、上司・部下の関係にあった。ローソンに派遣される前の4年間は、三菱商事の前社長で現会長の小林健氏に業務秘書として仕え、「一緒によくカラオケにも行った」(三菱商事の元役員)という。