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金子智朗「会計士による会計的でないビジネス教室」

放課後も夏休みも部活…日本の学校教育は絶望的?貴重な10代の全生活が拘束される危険さ

文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

 狭い世界でしか生きていないから、ビジネスパーソンとしての市場価値も上がらない。定年になった途端にやることがなくなり、会社以外の交友関係がまったくないことに気づいて愕然とするのである。

日本のテストは簡単

 もうひとつ考えさせられたのが、留学生の彼女が「日本の授業はオモシロイ」と言ったことだ。この「オモシロイ」は「変だ」という意味である。彼女が学校の先生の口調をまねして見せた。

「ハイ、ここ覚えて。ハイ、ここも覚えて。テストに出まーす」

 彼女は笑いながらおどけて見せたが、こちらは笑えなかった。

 彼女はこうも言った。

「日本のテストは簡単ね。全部、空欄に言葉を入れるだけか、選択肢を選ぶ問題ばかり。日本の高校生は論文は書かないの? オーストラリアではテストは論文ばかり。本を何冊も読まないとできない宿題も毎日のように出される。日本のように部活、部活の生活なんかしてたら寝る時間なくなるね」

 要するに、日本の教育は、言われたことを忠実に再現するよう徹底的にトレーニングする教育なのだ。これではワーカーとしては優秀な人材が輩出できても、優秀なリーダーを生み出すことはできない。イノベーションを起こす人材の育成など絶望的だ。

 誰かが考えたものを誰よりも安く高品質につくる“世界の工場”としての役割をとっくの昔に終えた日本は、教育のあり方に関して大きな岐路に立たされている。

 そういえば、その昔、私が公認会計士試験の合格体験記を依頼されたとき、「電卓早叩き競争のような現在の公認会計士試験のあり方は、時代錯誤も甚だしい」と書いた。あれから20年以上たった今、多少の制度改正はあったものの、いまだに電卓を叩かせている。ほとんどすべての企業がシステムによって経理業務を行っているのにだ。

 だから、社会の現実を何も知らない若い会計士の中には、何十行もある帳票の数字を目にも留まらぬ速さで電卓を叩き、「合計、合ってます!」と得意気に言ったりする者まで出てくるのだ。その帳票が、電卓よりもはるかに信頼性の高い高度なシステムから出力されたものだとも知らずに。

 時代にミスマッチな教育は、時代にミスマッチな人材しかつくり出さない。オーストラリアからの留学生が抱いた日本の学校生活に対する素朴な疑問は、日本の教育のあり方、そして日本の学校生活のあり方に対する重大な問題提起と受け止めなければならないだろう。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

1965年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程卒業。卒業後、日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事。在職中の1996年に公認会計士第2次試験合格。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(株)入社。2000年公認会計士登録し、独立。2003税理士登録。2006年ブライトワイズコンサルティング合同会社(www.brightwise.jp)設立、代表社員就任(現任)。
ブライトワイズコンサルティング

Twitter:@TomKaneko

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