しかし、自身が高齢でもあり、影響力のあるうちにスズキの将来に道筋をつけておきたかった鈴木会長は「自動車を取り巻く環境変化がめまぐるしく、技術を共有しないと生き残ることができない」と、次の提携先を頭に描いていた。
そしてGMやVWと提携していたことからもわかるように、スズキが想定する提携先は世界トップクラスであり、その意味でも次の相手はトヨタしかいない。ただ、トヨタと提携する上で最大のネックとなるのが、トヨタの子会社で、スズキのライバルであるダイハツ工業の存在だった。
トヨタとスズキの親密な関係
これを敏感に嗅ぎ取ったのがトヨタだ。もともとトヨタの豊田章一郎名誉会長、章男社長親子と鈴木修会長は、豊田家、鈴木家がともに静岡県・遠州地方を発祥の地とするという共通点もあって親しい。業界団体である日本自動車工業会の会合終わりに、鈴木会長が豊田章男社長の肩を叩きながら「あんまり中小企業をイジメないでくださいよ」と話しかけ、同社長が笑顔で応じる間柄だ。
ダイハツとスズキの国内軽自動車シェア争いが激化した際、「スズキ叩き」を徹底して進めたトヨタ出身のダイハツの販売担当役員が社長に昇格するという話を聞きつけた鈴木会長が、豊田章一郎名誉会長に進言して阻止したとの噂もあるほどだ。
スズキが次の提携先を模索すると見たトヨタは、提携に向けた障害を取り除く動きに出る。それがダイハツの完全子会社化だ。トヨタの100%出資子会社化することによってダイハツを完全にコントロールし、提携してもトヨタグループとしてスズキに迷惑をかけないという姿勢を示した。
今年8月にトヨタが計画通りダイハツを完全子会社化したことを確認した鈴木会長は、翌月の初頭、豊田章一郎名誉会長を訪問し、「トヨタと協力することはできませんか」と相談。同名誉会長は「両社が協力できないか協議だけでもしたほうがいい」と応じた。そして10月上旬、豊田章男社長は鈴木会長に「トヨタとスズキでいかなることができるか協議しませんか」と提携に前向きな発言を示し、具体的な提携協議に入ることで合意した。
日本車のガラパゴス化
将来の環境技術や先進運転支援システム技術に危機感を持つスズキが、「あらゆる分野で研究開発をしている」(鈴木会長)トヨタという後ろ盾を求める理由は明確だが、トヨタがスズキと提携するメリットは何か。大きな理由が、「同じ志をもった仲間づくり」だ。