「三菱自動車は信頼回復がもっとも重要。三菱自と益子さんを全力でサポートする」(カルロス・ゴーン日産自動車社長兼CEO<最高経営責任者>)――。
日産は10月20日、三菱自が発行する第三者割当増資を取得するため、2370億円の払い込みを完了、三菱自に単独で34%出資する筆頭株主となった。燃費不正問題をきっかけに三菱自は日産グループの傘下に正式に入った。そして注目されていた人事には、2つのサプライズが用意されていた。そこにはゴーン氏のしたたかな思惑と野望が垣間見える。
三菱自は、日産グループ入りした後の経営体制として、ゴーン氏が三菱自の会長に就任するとともに、現在のトップである益子修会長兼社長が社長を続投するトップ人事の内定を正式に発表した。事前に「ゴーン氏が会長に就任するとともに、益子氏に続投を要請」と報じられていたとはいえ、益子氏が続投を受け入れたことに驚いた関係者も少なくない。
今年4月に三菱自が軽自動車の燃費を偽装していた問題が発覚し、三菱自が軽自動車をOEM(相手先ブランドによる生産)供給している日産と今後の対策を話し合ううちに、翌月には三菱自と日産が電撃的に資本・業務提携の締結で合意した。過去2回にわたるリコール隠しを含む不祥事を抱えながら、燃費不正事件の発覚で企業として存亡の危機に立たされた三菱自の益子氏が、ゴーン氏に支援を要請したのが資本提携にまで発展したきっかけとなった。
燃費不正事件は軽自動車以外にも広がり、25年間にわたって不正を続けていたことが明らかになった。三菱自は当時社長だった相川哲郎氏と開発部門トップが6月開催の定時株主総会で引責辞任。これによって会長兼CEOだった益子氏は社長を兼務するとともに「(不祥事の)再発防止と再生の道筋をつけることが経営者の責任であり、新しい経営体制発足後に次の人に引き継ぐ」と、日産との資本提携が実行され、役員を受け入れて新体制が発足する臨時株主総会で退任する意向を明言していた。
益子氏留任の理由
それが一転、益子氏は日産グループ入りした後の新しい経営体制で社長を続投することを決めた。10月20日の記者会見でゴーン氏は、次のように益子氏に留任を強く迫ったことを明らかにした。
「益子さんは(燃費不正事件の)責任をとって退任したいと何度も言った。しかし、私が残ってほしいと要望した。益子さんには個人的な感情を犠牲にして三菱自の最大の利益のために残ってほしいとお願いした」