週休3日制でGDP増、子育て支援との両立を…世界で突出した長時間労働・低生産性
実際、ICT等の技術革新の進展などに伴い、米アップルやアマゾン、グーグルなどのような革新的な企業が誕生しているが、それらは労働集約型というよりも知識集約型の産業で、柔軟な発想や斬新なアイディアが求められる。そのような発想やアイディアを生み出すためには、「時間的なゆとり」が必要である。AI(人工知能)やビッグデータ・IoT等の第4次産業革命が進展していけば、その傾向はますます強まるはずである。
では、「労働時間」と「生産性」の関係はどうか。以下の図表1は、OECD加盟35カ国の時系列データ(1970年―2015年)をプロットしたものである。横軸は「年間平均の労働時間」、縦軸は「生産性」を表す。
なお、時系列データにおいて、先進諸国の「年間労働時間」は低下傾向にある一方、「生産性」は経済成長で上昇する傾向をもつことから、通常のプロットでは「見せかけの相関」を表す可能性が高い。この問題を取り除くため、各OECD諸国の「生産性」の値は、各年において、OECD諸国の平均が100となるように基準化したものを利用している。
この図表1から明らかな通り、「労働時間」と「生産性」は負の相関関係をもつ。両者が負の相関関係を有するとしても、「年間の労働時間が減少すれば、生産性が高まる」という因果関係を表すものではないが、AIやビッグデータなど第4次産業革命が進展しつつある今、過剰な長時間労働が、知識集約型経済の飛躍的成長の「起爆剤」となる柔軟な発想や斬新なアイディアを生み出すとは限らない。むしろ、このような起爆剤を生み出すためには、「時間的なゆとり」が必要なはずである。
ワーク・ライフ・バランス実現を目指して
では、生産性が増加すれば、1人当たりGDPも増加するのか。年間の労働時間が減少し、単位時間当たりの生産性が増加しても、1人当たりGDPが低下しては意味がない。短時間勤務のパートでいうならば、時給が高いパートを選んでも、労働時間を減少させたので、トータルの年収(=時給×年間の総労働時間)が低下するケースである。
このような現象が起こるか否かは、「1人当たりGDP=生産性×年間平均の労働時間」という関係から判別できる。
まず、図表1のプロット・データから、yを「生産性」、xを「年間平均の労働時間」として、近似曲線(y=088.3×exp[−0.001x])を求める。この近似曲線yとxの積から、「1人当たりGDP」(=y・x)が計算でき、その関係をプロットしたものが、以下の図表2である。この図表の横軸は「年間平均の労働時間」、縦軸は「1人当たりGDP」を表す。
この図表の「青色の曲線」(上に凸の曲線)が、1人当たりGDPと労働時間の関係を表す。この曲線が妥当な場合、横軸の「年間平均の労働時間」が約1000時間の辺りが、縦軸の「1人当たりGDP」が最大になる労働時間であることがわかる。
これは、日本の現時点(15年)の労働時間が約1700時間のため、700時間も減らすことができる可能性を示唆するが、この点については留意が必要である。
というのは、図表2の曲線のうち「青色の太線」部分は、図表1のOECD諸国の「年間平均の労働時間」データで実際に値が存在する部分であり、「青色の細線」部分は実際に値が存在しない部分を表すからである。たとえば、横軸の1500時間に相当する値はOECD諸国の「年間平均の労働時間」データに存在するが、横軸の500時間に相当する値は存在しない。このため、図表1のデータから判別する限り、「青色の細線」が現実に存在する保証はないが、「青色の太線」部分と「青色の細線」部分の境界は、年間平均の労働時間が約1360時間である。
したがって、図表2の関係が妥当であれば、労働時間を約1360時間まで減少させても、1人当たりGDPは上昇する可能性がある。日本の現時点(15年)の労働時間は約1700時間のため、年間平均で約340時間の減少に相当する。1日の労働時間が8時間の場合、約340時間は約42.5日の労働に相当し、週休3日制を実現できるような労働時間の減少であり、これだけの時間が確保できれば、子育て・介護などを含む仕事と生活の調和、すなわちワーク・ライフ・バランス(work-life balance)の実現もはるかに容易になるはずである。また、具体的な労働時間の減少ボリュームについては、基本的に労使の交渉に委ねることが望ましいが、それが実現しない場合、労働時間規制で誘導する方法も考えられる。
いずれにせよ、政府・与党は今、「(1)同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」「(2)賃金引き上げと労働生産性の向上」「(3)時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正」等を掲げて、「働き方改革」に力を入れているが、以上のような視点を含め、1人当たりGDPと労働時間の関係についても、深く検討を進めてみてはどうか。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)