「ガン」「削除」が並ぶ「責任三カ条」
電通には、ほかにも社員の行動規範を示したものがある。同じく吉田氏によって53年に発表された「責任三カ条」だ。83年から2006年まで電通に在籍していた柴田明彦氏の著書『ビジネスで活かす電通「鬼十則」 仕事に誇りと自分軸を持つ』(朝日新聞出版)によれば、以下のような内容である。
1.命令・復命・連絡・報告は、その結果を確認し、その効果を把握するまでは、これをなした者の責任である。その限度内における責任は断じて回避できない。
2.一を聞いて十を知り、これを行う叡智と才能がないならば、一を聞いて一を完全に行う注意力と責任感を持たねばならぬ。一を聞いて十を誤るごとき者は、百害あって一利ない。正に組織活動のガンである。削除せらるべきである。
3.われわれにとっては、形式的な責任論はもはや一片の価値もない。われわれの仕事は突けば血を噴くのだ。われわれはその日その日に生命をかけている。
同書によれば、「責任三カ条」は1987年まで社員手帳に掲載されていたという。柴田氏は新聞局出版・コンテンツ開発部長や業務推進部長として辣腕を振るい、「伝説の元電通マン」とも呼ばれる人物だ。その柴田氏自身、「鬼十則」の第5条と「責任三カ条」について、「何度読み返してみても、共に強烈な文章で身震いする思いがする」と同書で述べている。
電通の常識は世間の非常識?
また、入社当時を振り返り、社内の空気について「朝から晩、いや深夜に至るまですべての行動規範に『鬼十則』と『責任三カ条』が貫かれていた」「“電通の常識は世間の非常識”と揶揄されてもお構いなし」「『鬼十則』『責任三カ条』を行動規範として、この弱肉強食のサバイバルを生き抜く……」と記している。
柴田氏が、そのような過酷な環境で自己研鑽を積んだことは事実だろう。一方、電通では3年前にも男性社員(当時30歳)が過労死しているほか、91年8月に入社2年目の大嶋一郎さん(当時24歳)が長時間労働を苦に自殺した問題は「電通事件」と呼ばれ、電通の厳しい労働環境が世に知れわたるきっかけとなった。
大嶋さんは、長時間労働に加えて、上司から靴に注がれたビールを飲むように強要されるなどパワハラまがいの行為にも遭っていたといい、うつ病に罹患したが、上司は負担軽減措置を怠るなど見て見ぬふり同然だったことが明らかになっている。大嶋さんの自殺に関しては、2000年に最高裁判所が「過労死」と判断し、労災認定されている。