籾井氏は11月15日の衆議院総務委員会に参考人として出席し、「次期会長に就く資格が、あなたにあるのか」と問われた。これに対し籾井氏は「資格がないとすれば、今、会長をやっていられないのではないか」と答え、続投に強い意欲を示した。
11月9日の記者会見で、籾井氏は米大統領に勝利した共和党のドナルド・トランプ氏との類似点について問われ、「似ているとは全然思わない。(私は)乱暴な言葉遣いはもはやしませんので」と切り返した。
はたして籾井氏が再任するのか。そこには「そもそも経済界にNHK会長の適任者がいるのか」という深刻な問題が横たわっている。
NHKの最高意思決定機関である経営委員会は10月11日、NHKの次期会長を選ぶ「会長指名部会」を開き、5項目の資格要件を決めた。
資格要件は、以下の5項目だ。
・公共放送としての使命を十分に理解している
・政治的に中立である
・人格高潔であり、説明力にすぐれ、広く国民から信頼を得られる
・構想力、リーダーシップが豊かで、業務遂行力がある
・社会環境の変化、新しい時代の要請に対し、的確に対応できる経営的センスを有す
籾井氏は会長就任以来、その発言が物議を醸してきた。14年1月の就任会見で慰安婦問題に言及したり、15年2月には当時の民主党議員と激しく口論をしたりと、数々の舌禍事件を起こした。さらに子会社の元社員による不祥事などが続いたこともあり、経営委員会は籾井氏の言動を3度にわたって注意した。
今年10月末には、メディア研究の学識者らが、経営委員会に籾井氏を再任しないよう求める要望書を提出した。呼びかけ人は元経営委員の小林緑・国立音大名誉教授ら17人。ジャーナリストや弁護士、元NHK職員ら87人が賛同者として名を連ねた。NHKの会長選考で有識者らがこうした意見表明をするのは異例のことである。
渡辺氏の古傷
そんなNHK会長候補のひとりともいわれる渡辺氏がトヨタの社長に就任したのは、05年8月のことだ。社長時代には、赫々たる実績をあげた。08年3月期の連結営業利益は2兆2703億円と過去最高益を更新した。同年秋のリーマン・ショック後、経営が傾いた米ゼネラル・モーターズ(GM)を新車の販売台数でも抜いた。世界の新車販売台数は897万台となり、世界一に躍り出た。渡辺氏はトヨタの輝かしい歴史を築いたトップリーダーであった。