2016年の経済界は、創業家の存在がクローズアップされた。かつて、多くの企業は創業者の親族が出資し、一族が経営するファミリー企業として出発した。やがて規模が大きくなり上場企業ともなると、創業家だけでマネジメントすることができなくなる。血縁優先だと業績も株価も低空飛行する。「会社は株主のもの」という企業統治が一般的になるなかで、創業家の存在は薄れてきた。
16年は「物言う創業家」が力を強めた。セブン&アイ・ホールディングスや出光興産などでは、いまなお創業家が隠然たる力を持ち、経営陣と対立した。創業家畏(おそ)るべしだ。経済がグローバル化し経営の潮流が大きく変わっても、延々として世襲を堅持してきた企業が存在する。
自動車メーカーのスズキは、そんな企業の代表例である。会長は鈴木修氏、社長は長男の鈴木俊宏氏。修氏というカリスマ経営者が経営の第一線から去った時、同社には何が起きるのか。はたしてスズキは世襲・同族経営を続けることができるのか。17年は、その行方に注目が集まる。
業務提携交渉
修氏とトヨタ自動車の豊田章男社長は2016年10月12日、トヨタの東京本社で緊急記者会見を開き、業務提携の交渉入りを発表した。ITや環境分野の先端技術などが対象。だが、その具体的な提携内容は、最後まで2人のトップの口から出てこなかった。「まだ見合いの段階」と豊田氏は話し、「具体的な内容の検討はこれからだ。まだ決っていない」と強調した。
提携の発表文は、修氏の「(トヨタの)豊田章一郎名誉会長にまず相談させていただいた」とのコメントから始まる異例の内容となっている。
「『協力していただけないか』と、思い切って相談したのは9月。『協議していいのでは』と言っていただき、喜んだ」(修氏)
章一郎氏は豊田章男氏の父親だ。
「修氏は技術開発などスズキの弱点や不安について章一郎氏に何度も相談しており、良好な関係にある」(トヨタ首脳)。
スズキを救ったトヨタ
トヨタがスズキの“危機”を救うのは、今回が初めてではない。