そして15年6月30日、父から長男へと唐突に社長が交代した。俊宏氏が社長兼最高執行責任者(COO)に就き、父の修氏が会長兼最高経営責任者(CEO)となった。娘婿が経営するスズキの伝統からすれば、実子への継承は極めて異例のことだ。
トヨタの思惑
修氏がスズキのトップになった1980年代以降、ずっと“伴侶(提携先)探し”を続けてきた。「ナンバーワンの会社としか付き合わない」との方針で米ゼネラルモーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)と資本提携したものの、いずれも破談となった。VWとは、国際仲裁裁判所の仲裁にまで発展。2015年8月30日、4年にわたるドロ試合に終止符が打たれた。そうなると修氏の最後の大仕事は、VWとの提携解消で引き取った19.9%のススギ株式の引受先を探すことだ。
駆け込んだのは、やはりトヨタだった。
「表向きは新技術分野での提携だが、真の狙いはトヨタと資本提携してトヨタの傘下に入ることだ」(自動車メーカー首脳)
養子経営の場合は「事業がすべて」ということが座標軸になる。世襲・同族経営にこだわらない。事業を続けるためにトヨタに経営権を渡すことも厭わないということだ。
「息子を社長にするのは、いつでもできる。だが、経営者にすることはできない」
ダイエーの創業者、中内●【編注:工編に刀】氏はこんな言葉を遺した。傑出した経営者である修氏は、この言葉の意味が痛いほどわかっている。俊宏氏は本当に社長の器なのか。技術競争が激化している“世界自動車ウォー”の最中に、俊宏氏に経営のカジ取りを任せておいて大丈夫なのか。修氏の最後の賭けは、トヨタとの提携だった。
とはいっても、婚約・結婚は相手のあることだ。「トヨタの章男氏は、父・章一郎氏が仲介したので渋々見合いはしたが、結婚する気はない」(業界関係者)というのが、大方の見方だ。
修氏の最後の賭けは成就するのであろうか。17年の年央には、おぼろげながら結果が見えてくるだろう。
(文=編集部)