なぜ混雑でイライラしてもあなたは買わされてしまう?混雑と消費行動の知られざる関係
混雑している店での買い物は、誰もが避けたいものだと思います。混雑は、避けられればいいのですが、混雑した状況下で買い物しなければならないとき、買い物客はどのような購買意思決定をするのでしょうか。これが今回のテーマとなります。
混雑は、必要とする空間が確保されないときに生じる心理的ストレス状態と定義され、その感じ方は、予想していた混雑の程度、時間的な余裕、買い物目的、許容度によって異なります【註1、註2】。店内の混雑を不快に思うのは、商品をゆっくり、あるいはすぐに選べない、店内をスムーズに移動できない、レジでの待ち時間が長いなど、自分の買い物を思うようにできないからで、その不快感は、目的のはっきりした買い物を急いでしなくてはならないときにもっとも強くなります。
逆に、特に買うものが決まっておらず、買い物を娯楽や他者との触れ合いを楽しむ機会として捉えている場合には、混雑はむしろ刺激的で、それほどひどく感じないことがわかっています【註1、註3】。おそらく、暇つぶしに店内を歩き回るときも同様でしょう。
混雑とパーソナルスペース
混雑を不快に感じる理由としてよく挙げられるのが、パーソナルスペースの侵害です。パーソナルスペースとは、他者との距離を最適に感じる目に見えない領域のことです。人は誰でも自分の身体の周りにそうしたスペースを持っており、このスペースが確保されているときは快適に感じ、他者がこのスペースに近づいたり入ってきたりすると不快に感じます。前方が広く、後方にいくにしたがって狭くなる「たまご型」をしているとされ【註4】、売り場やレジ待ちでは、自分の後ろよりも前に多くの人がいると、不快感は強くなります。
また、他者の存在によってパーソナルスペースが侵害されると、「自己統制感」が低下することも明らかにされています【註5】。自己統制感とは、自分がさまざまなことを決定しているという感覚であり、自分の能力や優越性の高さを表します。多くの人は、自分のことは自分でコントロールしたいという欲求を持っていますが、この欲求がコントロールの困難な混雑状況では満たされなくなるのです。さらに、「独自性」や「個性」が喪失するという指摘もあります【註6】。多くの人は、自分がどういった人間なのかを認識しており(=アイデンティティの確立)、「他者とは違っていたい」という独自性欲求を持っています。この欲求も、雑踏の中に埋もれているような状態にあると、周りとの違いがないように感じられて満たされなくなり、独自性や個性の自己評価が低下するのです。