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白井美由里「消費者行動のインサイト」

なぜ混雑でイライラしてもあなたは買わされてしまう?混雑と消費行動の知られざる関係

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 分析の結果、混み合った部屋で作業をした被験者は、空いた部屋の被験者よりも、安全と関連する単語を多く見つけ、コンビニエンスストアよりも薬局を、クッキーよりも救急関連製品をより高く評価しました。

 混み合った部屋ではパーソナルスペースが侵害されるので、防衛本能が働きます。その結果、「予防志向」になり、予防と関連する特徴をもつ薬局や救急関連製品をより魅力的に感じたのです。反対に、空いている部屋は快適なので「促進志向」になり、より好ましい商品が多いコンビニエンスストアや快楽的商品であるクッキーをより魅力的に感じたのです。

混雑した店の応対について

 以上のことから、混雑した飲食店の場合、客に座る席を選んでもらうときには、客は自分の意思でその状況に向かっていくことになるため、周辺の客に親しみを感じ、近くに座っている客や多くの客が注文している料理を好むと思われます。したがって、その店の「人気料理」や「売り上げナンバーワン料理」などをお勧めすると喜ばれると思います。

 反対に、客が着席した後に混み始めたり、混雑状況の中で店員が客の席を指定する場合には、客は自分の独自性を維持するために、ユニークなメニューを好むと思われます。「期間限定」や「数量限定」のメニューや希少性の高い特別メニューをお勧めすると喜ばれると思います。

 また、体に良い食品や健康器具などを客に推奨する場合、客が多くなる休日や時間帯ではそれらを消費しないことで生じるネガティブな面をアピールすると、混雑によって「予防志向」になった客の注意をひくことができると思います。反対に、空いている状況では、客は良い点に注意を向ける「促進志向」になるので、効果をアピールするのが適していると思います。

 たとえば、野菜中心の食生活を推奨する場合、混雑している状況では野菜を食べないことのデメリットを、空いている状況では野菜の消費から得られるメリットをアピールすると、より高い効果が期待できます。

 最後に、混み合う店や行列ができている店では、店員が「お待たせしてすみません」といった言葉を客にかけると、客は「待たされた」と感じてイライラが募るのに対し、「本日はお忙しい中、この店を選んでいただき誠にありがとうございます」といった言葉をかけると、混雑した店での買い物や行列に並ぶことを「自分が決めた」と感じるので自己統制感が高まり、混雑に対する不快感が弱まると考えられます。

 買い物環境が混雑しているかどうかによって、買い物客の感じ方や選択が変わる可能性があるので、混雑状況に合わせたマーケティング戦略をとると、顧客とのより長期的な関係性の構築につながるかもしれません。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

参考文献
【註1】Eroglu, S. A. and K. A. Machleit (1990), “An Empirical Study of Retail Crowding: Antecedents and Consequences,” Journal of Retailing, 66 (2), pp. 201-221.
【註2】Machleit, K. A., J. J. Kellaris, and S. A. Eroglu (1994), “Human Versus Spatial Dimensions of Crowding Perceptions in Retail Environments: A Note on Their Measurement and Effect on Shopper Satisfaction,” Marketing Letters, 5 (2), 183-194.
【註3】Baker, J. and K. L. Wakefield (2012), “How Consumer Shopping Orientation Influences Perceived Crowding, Excitement, and Stress at the Mall,” Journal of the Academy of Marketing Science, 40 (6), pp. 791-806.
【註4】中島義明・繁桝算男・箱田裕司編 (2005)『新・心理学の基礎知識』、有斐閣ブックス.
【註5】Hui, M. K. and J. E. G. Bateson (1991), “Perceived Control and the Effects of Crowding and Consumer Choice on the Service Experience,” Journal of Consumer Research, 18 (September), pp. 174-184.
【註6】Xu, J., H. Shen, and R. S. Wyer Jr. (2011), “Does the Distance between us Matter? Influences of Physical Proximity to Others on Consumer Choice,” Journal of Consumer Psychology, 22 (3), pp. 418-423.
【註7】Maeng, A., R. J. Tanner, and D. Soman (2013), “Conservative When Crowded: Social Crowding and Consumer Choice,” Journal of Marketing Research, 50 (December), pp. 739-752.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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