戴氏は8月22日、社員向けのメッセージで早期に黒字化を目指す考えを示した。分社化経営やコスト削減、信賞必罰の徹底などの経営改革を本格化させた。そんな戴氏のモーレツな仕事ぶりを16年10月31日付「産経WEST」はこう伝えている。
「戴社長は毎朝7時ごろ始動する。7時半からの会議も珍しくない鴻海で身についた習慣で、1日16時間働くとされる郭台銘会長よりも早く出勤するため17時間働くとも言われている」
高度成長時代の日本人を彷彿させるモーレツ経営者である戴氏が目標に掲げたのが、早期に黒字に転換して東証1部に復帰することだった。
下期の最終利益の黒字化を公約
シャープは16年11月1日、未公表だった17年3月期の連結業績予想を明らかにした。
通期売上高は、液晶ディスプレーの販売減で前年比18.8%減の2兆円の見込みだ。前期1619億円の赤字だった営業損益は、257億円の黒字とした。鴻海との相乗効果が寄与するという。通期営業黒字を実現できれば3期ぶりとなる。持ち分法投資損失や減損で純利益は418億円の赤字になると見ている。上期(16年4~9月)は454億円の赤字だったが、下期(16年10月~17年3月)を36億円の黒字に転換するとしたのだ。
郭氏でさえ、シャープの最終黒字は2年後と、時間的な余裕を与えていた。ところが戴氏は、社長に就任した最初の決算で下半期に最終黒字を必達目標にしたのである。極めて大胆な目標設定といえ、戴氏の経営力が問われる最初の場面となる。
鴻海がシャープを買収した本当の理由
鴻海はなぜ、シャープを買収したのか。その狙いが明らかになってきた。
シャープと鴻海が共同出資するテレビ向け液晶パネル生産会社、堺ディスプレイプロダクト(SDP)は16年12月30日、中国の広州市政府と共同で世界最大級のパネル工場を新設すると発表した。広州の新工場に1兆円を投じ、18年秋の生産開始を目指す。
その前日の29日、シャープは保有するSDP株の一部を鴻海に譲渡した。鴻海の議決権ベースの持ち株比率は39.88%から53.05%となり、SDPを子会社にした。
シャープは持ち株を171億円で売却し、16年10~12月期の連結決算で2億3400万円の特別利益を計上する。戴氏が下期の最終黒字を公約した根拠となるカードの一枚を切ったことになる。