本田技研工業(ホンダ)がこれまでの孤高主義を変えて、米ゼネラル・モーターズ(GM)と北米の四輪事業の戦略提携(アライアンス)を進めると発表した。ホンダとGMはガソリン車のエンジンと車体(プラットフォーム)の共通化を検討する。それによって、ホンダは最重要市場である北米市場でのコスト削減と利益率の向上を図ることを目指す。ただ、現時点ではさらに進んだ資本提携は行わないという。
現在、ホンダもGMも業績は厳しい。両社は生き残りのために今回の戦略提携に至った。ホンダは北米事業のコストを削減し、研究開発の強化などにつなげたいと考えているはずだ。小型車やEV(電気自動車)の開発を進めなければならないGMにとって、ホンダの技術を活用することは目先の収益確保に重要だ。
ホンダは中国のCATLなど他の企業ともアライアンスを進めている。見方を変えれば、創業以来、自主性と独立性を重視してきたホンダは、大きな変化の局面を迎えた。同社にとってアライアンスを強化することの重要性は追加的に高まるだろう。それを進めつつ、経営陣が組織全体の士気をどのように高め、競争力の発揮につなげることができるかに注目が集まる。
環境激変の中で生き残るためGMとの戦略提携
ホンダが米GMと戦略提携を発表した大きな理由は、新型コロナウイルスの感染の影響によって米国の自動車需要が低迷し、業績がかなり厳しいからだ。4~6月期のホンダとGMの決算をみると、両社ともに売り上げが減少し、最終赤字に陥った。2021年3月期の純利益について、ホンダは前期比64%減の1,650億円になるとの見通しを示した。また、GMはコロナショックの影響がかなり深刻であり、抜本的かつ恒久的なコストの削減を迅速に進めなければならないとの危機感を表明した。
現在の世界の新車販売市場の動向を俯瞰すると、中国を除いて需要の回復は鈍い。8月のホンダの中国販売実績は、前年同月比19.7%増の14.9万台だった。ただ、中国の新車販売市場の回復は販売補助金の延長などによって支えられている側面がある。需要回復の持続性は不透明だ。中国市場だけを頼りにホンダが収益改善を目指すことは難しい。
ホンダにとって、北米市場は四輪事業の売り上げの6割程度を占める最重要市場だ。8月、中国市場と対照的にホンダの米新車販売台数は同22%減だった。当面の収益体制を立て直すために、稼ぎ頭である米国事業の効率性を高めることは喫緊の課題だ。そのために、ホンダはGMとの戦略提携を行い、両社が北米市場で販売する自動車に関して、プラットフォームやエンジンの共有を行い、コスト削減を目指す。
ホンダはGMと資材の共同購買も目指している。それは規模の経済効果の実現を目指すための取り組みといえる。また、ワクチンが開発段階にあるなかで、新型コロナウイルスの感染がどうなるかは読みづらい。それに加えて、IT先端分野を中心に米中対立が先鋭化していることは、世界のサプライチェーンを混乱させる恐れがある。そうした状況に対応するためにも、アライアンスを組んで鋼板など自動車製造に必要な資材や、エンジンをはじめとする主要パーツなどの調達を行うことは収益を守るために欠かせない。それは、ホンダが当面のペントアップ・ディマンドを取り込むために重要だ。
生き残りのために加速化するホンダの構造改革
それに加えてホンダは、“CASE(Connected:コネクティッド、Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化)”、さらには都市空間の一部としての新しい自動車の社会的な役割発揮を成長につなげなければならない。そのためには、より効率的な事業運営体制を確立し、研究開発体制を強化することが求められる。
GMとの戦略提携が発表される以前から、ホンダはCASE化などに対応するための構造改革に着手した。まず、2019年5月、ホンダは6つの地域を需要の特性や環境面などの規制の共通分が多い地域で束ね、商品ラインアップを絞り込む改革を発表した。同社は、2025年までにグローバルモデルの派生数を従来の3分の1に削減する方針だ。
構造改革を進める矢先、想定外に新型コロナウイルスの感染が世界全体に広がり、ホンダは需要の急減に直面した。その結果、ホンダはこれまで以上のスピードで構造改革を進め、より効率的な事業運営を目指さなければならなくなっている。言い換えれば、コロナショックの発生がホンダに構造改革のスピードアップを求めている。2017年7月に国内復活が実現した“シビック・セダン”が生産終了となるなど、経営陣はかなり思い切った改革を進めている。
GMとの戦略提携の発表とほぼ同じタイミングで、ホンダは傘下の自動車部品メーカー(ケーヒン、ショーワ、日信工業)へのTOB(株式公開買い付け)実施を発表した。ホンダは3社を完全子会社にする。その上で、2021年3月までにホンダは傘下部品メーカーと日立製作所傘下の日立オートモティブシステムズ(ホンダが49%を出資)の合併を目指している。さらに、2022年から日立オートモティブシステムズは米国でEVなど向けのモーターの量産を開始する予定だ。
それが意味することは、稼ぎ頭の市場である米国にてホンダがコストの削減と、成長期待の高い分野への取り組みを、他社とのアライアンス強化によって進めていることだ。それは同社の改革のスピードが加速化していることといえる。
重要性高まる自動車業界のアライアンス戦略
ホンダの倉石副社長はGMとの提携の理由としてコスト効率の向上を指摘した。また、現時点でホンダはGMとの資本提携は行わない。その二つを合わせて考えると、ホンダは成長の強化に向けて必要な体制を柔軟かつ迅速に整備する一方で、自社の資本政策に関しては意思決定権を持ち続けたい。また、昨年末、日産とホンダの経営統合が模索された際、ホンダは統合に反対したと報じられている。自社の経営の意思決定に直結する資本面に関して、ホンダは独立性を保ちたい。
今後の展開を考えると、CASE化などへの対応のために迅速かつ相応の規模で設備投資を行うことの重要性が高まる。自動車メーカーが世界市場で競争力を発揮するには、より大規模に研究開発を行い、最先端の技術をいち早く実用化することが不可欠だ。
そう考えると、ホンダにとってアライアンス戦略の重要性は追加的に高まるだろう。他の地域でもガソリン・エンジンの共通化などを目指した提携が交わされ、コスト削減への取り組みが進む可能性がある。それは、ホンダの収益獲得を支え、資金調達と先端分野の技術開発に向けた設備投資の強化に欠かせない。
創業以来、ホンダは独自の技術を生み出して需要を創出してきた。自社の生産要素をフルに活用して新しい技術や発想を実現する経営風土は重要だ。ただし、コロナショックの発生によって自動車産業を中心に世界経済の変化のスピードは加速化している。急速かつ大規模に進む変化に対応するために、他の企業とのアライアンスを強化して事業運営の効率性を高めたり、必要な技術を取り込んだりすることは変化への対応力を高めるために重要な方策だ。
ホンダの経営陣は、進行中の構造改革のなかで自社の強みを支えてきた研究開発部門を中心に、組織を構成する人々の集中力が低下しないようにしなければならない。組織の実力は人員数と一人一人の集中力を掛け合わせたものと言い換えることができる。経営陣は、アライアンス強化を、独自の技術を生み出すという経営風土のさらなる醸成につなげなければならない。そのためにどういった戦術・施策が実行されていくかに注目したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)