大手新聞社が、社論を代表する立場にある自社の論説副主幹を紙面で真っ向から批判するという異常事態が起こっている。
ことの発端は、1月2日放送のテレビ番組『ニュース女子』(TOKYO MX)が、沖縄の米軍基地反対運動を「テロリストみたい」と伝え、さらに基地建設への抗議活動をしている市民に対し市民団体「のりこえねっと」が日当を支払っている、などと報じたことだった。「のりこえねっと」は放送に抗議するとともに、共同代表の辛淑玉氏は1月27日、「(放送内容は)事実に反している」「虚偽・不公正」と、BPO(放送倫理・番組向上機構)に人権侵害を申し立てた。
そして同番組の司会を東京新聞(中日新聞東京本社)論説副主幹である長谷川幸洋氏が務めていることから、話は思わぬ展開に発展する。2月2日、東京新聞と中日新聞は、深田実論説主幹名で「他メディアで起きたことではあっても責任と反省を深く感じています。とりわけ副主幹が出演していたことについては重く受け止め、対処します」とする謝罪記事を掲載。しかし、そもそも同番組は東京新聞と無関係であり、この謝罪記事には長谷川氏のコメントは一切掲載されておらず、同紙が十分な検証・問題の検証を行わないままに謝罪したことが、かえって批判を招く事態となった。
さらに2月6日、長谷川氏は出演したラジオ番組内『ザ・ボイス そこまで言うか!』(ニッポン放送)内で、“身内”である東京新聞に対し次のような痛切な批判を展開している。
「ニュース女子と東京新聞はまったく関係ない。なぜ深く反省するのか」
「番組で取り上げた議論と東京新聞の報道姿勢は違うし、私自身も違う。でも、違いを理由に私を処分するのは言論の自由に対する侵害」
「意見が違うことで排除したら北朝鮮と一緒」
メディアとして機能不全
大手メディアの2トップが公然とお互いを批判し合うという異例事態について、別の大手紙記者は次のように語る。
「長谷川さんは以前から、公の場で東京新聞に批判的な発言をしたり、社論と異なる発言をしていましたが、そうした“自由さ”が許されるのが東京新聞の良い面でもあり、一定数の東京新聞ファンを掴む要因にもなっています。論説主幹クラスが自社の新聞を批判するなど、他の大手紙では御法度で、一発で処分モノでしょう。しかし、ここまであからさまに一新聞社とその副主幹が非難合戦を繰り広げるというのは、明らかに行き過ぎで、一メディアとして体をなしておらず機能不全に陥っている。東京新聞としては、長谷川さんになんらかの処分をしないと、社内外に示しがつかないでしょう。これを許したら、“現場の記者も何をしても許される”ということになってしまいますよ」