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垣田達哉「もうダマされない」

トランプ米国は日本の貿易黒字を絶対許さない…安倍政権、「車」死守で「農家」生贄か

文=垣田達哉/消費者問題研究所代表

米国は納得しない

 トランプ政権は、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定のように、5~10年かけて輸入を増やすというような生ぬるいことは許してくれないだろう。「今年中にどれだけ米国の貿易赤字を減らせるのか具体的な数字を示せ」、あるいは「その代替策を提案しろ」と迫ってくるかもしれない。

 日本側が無回答であれば、日本車の輸入を抑えるために「自動車の輸入に20%の関税をプラスする」ということになりかねない。トランプ大統領は「米国で売る車は米国の工場でつくれ」という姿勢だ。「4兆円のうち1兆円分を米国の工場でつくれば、米国での雇用も生まれる。日本で製造して米国に輸出するよりコストが安くなるかもしれない。そうなれば、米国民は、日本から輸入するより安い日本車を買うことができるだろう」と迫られたとき、どんな反論ができるのだろうか。

 安倍政権は、自動車の関税が引き上げられ米国への輸出が減る事態は極力避けたい。1兆円でも輸出が減れば、自動車産業および経済界への打撃が大きすぎる。そうなると、貿易黒字を減らすには、米国からの輸入を増やさなければならない。数兆円の貿易黒字を一気に減らすことは難しいとしても、米国から日本への輸出を拡大する具体的な品目と金額を明示しなければ米国は納得しない。

「米」と「牛肉」の輸入増加

 そこで浮上するのが食料品である。食料品全部合わせても、昨年の米国からの輸入額は約1兆3250億円しかない。そのうち、肉類は約3500億円、穀物類は約3600億円である。米国側が要求してくるのは「米」と「牛肉」の輸入増加だろう。

 穀物の小麦、トウモロコシ、大豆は日本の自給率がかなり低いので、これ以上輸入量が増えることはない。肉類の豚肉は、すでに輸入量が多いので、米国産の輸入拡大はあまり見込めない。ところが米と牛肉は、国産の消費量が多いので、安い米国産が輸入されれば、相当な需要が見込める。

 しかもこの2品目は、米国での大量生産が可能で、関税をゼロにすれば日本の輸出額は数千億円増加する可能性がある。そうなると、今度は日本の米農家と畜産農家に大打撃を与えることになる。

 TPP協定が実行されても国内農家への影響が大きいといわれているのに、2国間協定で米国の言いなりになって、自動車を守るために食を犠牲にすれば、まさに「トランプの思うつぼにはまる」ことになる。

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應義塾大学商学部卒業。食品問題のプロフェッショナル。放射能汚染、中国食品、O157、鳥インフルエンザ問題などの食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで活躍する。『ビートたけしのTVタックル』『世界一受けたい授業』『クローズアップ現代』など、テレビでもおなじみの食の安全の探求者。新刊『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)、『選ぶならこっち!』(WAVE出版)、『買ってはいけない4~7』(金曜日)など著書多数。

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