【高知県津野町「天狗高原」篇】
こちらは、町長自ら体力の限界までがんばってアピールしています。四国カルスト・天狗高原にて、“ツノ”をつけた津野町長が高知と愛媛の県境を反復横跳びで華麗にステップ。町長の息切れ状態の必死な姿や、「津野だ! つーの!」のかわいらしいキャッチコピーに、なんだか愛着が沸く“愛嬌たっぷり”な動画です。
ふるさと納税の獲得がPR動画の効果検証のひとつに
PR動画を制作した効果として、テレビ番組などマス媒体への露出時間をテレビCMとした場合の金額換算、動画の再生回数、移住に対する問い合わせ件数などが挙げられますが、もっとも効果を捉えやすいのが、ふるさと納税の増加金額といえましょう。
自治体のなかには、話題のPR動画を展開する前と後で、およそ6億円も納税額が増えたケースもあるほどです。
各自治体においてPR動画の大きなマーケティング目的となるふるさと納税ですが、個人の確定申告との兼ね合いで、その駆け込み申し込み時期は毎年12月です。昨年も、テレビでは年末にかけて「ふるさと納税サイト」のCMがさかんに流れていました。
小諸市の動画は、10月に制作が決定され、11月から取り掛かりました。年末までに残された時間はほんのわずか。企画~キャスト~撮影~音入れ~編集と、通常では2カ月以上掛かる工程を、1カ月足らずで完成させたのです。
さて、結果はどうなったか――。もちろん、この動画だけが寄与したわけではないですが、前年度の679万円から4626万円(平成28年4月~平成29年1月末)と、確実に数字として表れ始めています。
肝心なのは、拡散が起こるまでの助走期間
一般的なテレビCMは、15秒・30秒といった枠のなかで、広告主がお金を支払ってオンエアされます。一方、PR動画は動画素材自体を制作するものの、YouTubeなどの動画閲覧サイトに公開することで、媒体費がゼロ円というものがほとんどです。
肝心なのは、マス媒体やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で、いかに情報拡散するための“バズ”(話題が巻き起こること)を起こすかということ。今回紹介している動画のケースではありませんが、最近、地方PR動画でユーチューバー(YouTubeで広告収入を得ている人)を主役に置いたり巻き込んだりするのは、ユーチューバーを介して拡散を速めるための戦略なのです。
小諸市では、報道各社に送るプレスリリースづくりに注力し、なんと記者会見の席上では、ゆるキャラ「こもろん」と悪の集団の対決シーンを再現。
会場では、「司会を務める女性アナウンサーを悪の集団が本当に連れ去る」という念の入れようで、その映像がそのままNHKをはじめとしたテレビニュースに流れるほど、パブリシティに成功したのです。
こんな楽しい“まち”なら「住んでみたい」「行ってみたい」と思わせる
地方PR動画が乱立するなかでは、温泉・風景・自然・特産物といった、わかりやすく目立つ観光資源をPRしても、差別化することが難しくなってきています。
そうかといって、奇抜さが先立つ動画は、認知を広める効果はあっても一過性の話題で終わってしまいやすいです。
今回取り上げたPR動画では、「市長や副市長、町長がこんなことをやるのか」という驚きと本気度が伝わってきます。地元を代表する「顔」が見えていることの安心感や、お役所に対する無味乾燥で堅いイメージを覆している点も見逃せません。
そして、自作ラップ、県境を反復横跳びといったお金に頼らない創意工夫を通して、他人任せではなく、自分たちの力で地元を盛り上げようとしている姿勢が“幅広い好感”につながっていくのです。送り手の「飾らない本当の気持ちが伝えられるPR動画」になっているかどうかが、大きな鍵を握るのです。
地方自治体に対し、首都圏の大手広告代理店や制作会社が行脚し、貴重な地方自治体の税金や国からの助成金(交付金)は、結局は中央に吸い上げられている状況が多く見受けられます。
国からの助成金などに頼って、自治体職員が予算を確保することに奔走することも大事ですが、「お金を使うことより、知恵を絞り出すこと」に、もっと目を向けてほしいものです。
さて動画で熱演した小諸市長は、実際に市民から「市長がこんなことをして、恥ずかしくないのか」と言われたそうです。
いやいや、自分の市のPRすら他人任せで、「ひと肌脱げない市長」のほうが、よっぽど「市民としては恥ずかしい」と思いませんか?
(文=鷹野義昭/CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター)
※PR動画の解説は、株式会社テムズが運営する「ぐろ~かるCM研究所」サイトより抜粋。秀逸なローカルCMや地方PR動画をノミネートし、専門家集団が評価してランキング形式で全国に紹介しています。