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山田修「間違いだらけのビジネス戦略」

ヤマト、業績悪化&運転手パンクの元凶・アマゾンと取引中止すべき…佐川は放逐に成功

文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント

 佐川の場合は、「儲からない最大顧客」を果敢に放逐し、獲得した余剰経営資源で新しいビジネスセグメントに打って出た。すなわち、企業間物流であり、国際物流だ。宅配便から手を引いたということではないが、軸足を移した、ということだ。そして、それは成功している。アマゾン問題を含み、佐川は戦略的に賢い立ち回りをしたと評価する。

 一方、ヤマトの通信簿(財務)を見ると悲惨だ。

 アマゾンと取引開始直前の12年3月期のデリバリー事業は、売上が1兆145億円だった。アマゾンを獲得したことで、14年の売上は1兆987億円へと842億円のオンを果たしている。この2年間に佐川は売上を570億円減らしたので、ヤマトはアマゾン分の売上が増加し、さらにその他のビジネスが積み上がったと見ることができる。

 ちなみに16年3月期のヤマトのデリバリー事業の売り上げは1兆1119億円と、売上的には大問題を起こすほどの伸張にはみえない。しかし、そこに同社の経営戦略的な問題が潜んでいる(詳細は後述)。

 さらにヤマトのデリバリー事業の営業利益に目を移すと、12年の410億円から、アマゾンとの取引が開始された14年には359億円へと急落し、16年3月期は382億円程度と推定されている(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/2017年3月4日号>)。

 トップが伸びたのにボトムが悪化する、このような状態を「悪手の経営」と呼ぶことができる。

ヤマトの取り扱い個数の2割がアマゾン

 ヤマトのデリバリー事業のなかで、アマゾンがどれだけの企業内シェアをもっているのか。13年にアマゾンとの取引を開始した時の売上伸張が、当時の年商の4.2%程度だった。これが、そのまま当時の「ヤマト内アマゾンシェア」とみることができる。

 その後、アマゾンジャパンの売上は13年に約7,500億円、15年に約1兆円と推定されている(同)。15年の伸び率は16年にはさらに加速しただろう。アマゾンのこの成長がそのままヤマトにおける宅配個数の伸びとして考えられる。

 実際、「ヤマトの売り上げに占めるアマゾンの割合は1割を超えている」(同)、あるいはヤマトに潜入取材したジャーナリスト、横田増生氏のように、「ヤマトは現在、年間17億個超の宅急便を配達する。アマゾンの荷物はその2割にあたる約3億個」(「週刊文春」<文藝春秋/ 2017年3月9日号)という見方もある。

 問題は、その最大顧客の単価が群を抜いて安い、ということだ。ヤマトの平均運賃単価である570円台と比べると、アマゾンのそれは約250円と、半額以下とされる(横田増生氏)。もちろんこれより安い大口顧客はいないとみられる。ヤマトの顧客シェアとして、個数ベースで約2割、単価が平均の半額なので金額ベースでは約1割となるというのは整合性があるので、両方とも信じられる。

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第12期」が10月より開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。
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