ヤマト、業績悪化&運転手パンクの元凶・アマゾンと取引中止すべき…佐川は放逐に成功
手ぬるいヤマトの対応策
2月に入り、ヤマトはついに労働組合から眦(まなじり)を決した申し入れをされてしまったわけだが、経営陣の言い分としては、これまで何もしていなかったわけではない、というところもあるだろう。
というのは、14年から値上げを断続的に行ってきた経緯があるのだ。しかし、その都度競合との価格競争に巻き込まれ、長期的な単価引き下げと営業利益率低下のスパイラルとなってきてしまった。
組合からの申し入れを受けて、今回会社が検討に入ったのが、冒頭に掲げた諸策なのだが、私に言わせればそれらにより状況が解決されるとは思えない。
というのは、ヤマトの根本的な問題というのは、利用顧客のすべてに展開して解決すべきものではないのだ。そして解決できることでもない。
問題となっているのは、ヤマトにとって最大不良顧客アマゾンただ1社なのである。この構造は、ちょうど1980年代に日米貿易摩擦問題が勃発したときに、分析してみれば日本の対米貿易黒字のほとんどは自動車業界だった、というのと似ている。ヤマトはアマゾン問題を解決しない限り前に進めないことを、肝に銘じなければならない。
アマゾンをヤマトは返上すればいい
どうすればいいか。現在のアマゾン特別価格250円を、少なくとも500円に訂正する。
この値上げがアマゾンに受け入れられる場合を、「ケースA」としよう。ケースAなら、アマゾン取り扱い個数が年間約3億個なので、約750億円の増収が見込まれる。ヤマトは黒字会社であり、かつこの増収に対して何の新規業務が発生しないのでこの750億円は「限界利益」となり、そのまま増益に回る。
750億円は、約5万4000人いるセールスドライバーの待遇改善にそっくり回す。一人当たり139万円の年収改善余資となる。中小型トラックドライバーの年収平均は388万円で、全産業平均の489万円より低い(15年、厚生労働省調べ)。仮にヤマトのセールスドライバーの年収を388万とすると、139万を改善すれば527万円となり、ヤマトの運転手不足は一気に解決に向かうだろう。
値上げがアマゾンに受け入れられない場合を「ケースB」としよう。
「アマゾンの売り上げを失ってもいいという覚悟で望む必要があるが、実際に失うと今後は人手がだぶついて、赤字になってしまう可能性がある」(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/3月4日号>より、ヤマト幹部のコメント)
今がすでに業務的にパンクしているのだから、業務を個数ベースで2割減らすのは理にかなったことだ。前述したように、金額ベースでは1割ほどのことだ。そして、ケースBの有効性は13年に佐川で実証されたことでもある。
労働組合から改善を求められている諸問題は、実は年間取り扱い個数を現状で頭打ちにするということでは解決できない。現状ですでに過大なサービス残業などが発生しているからだ。問題を解決するためには、現状で個数凍結するのではなく、減らさなければ駄目だということを直視すべきだ。
ヤマトがアマゾンとの取引を停止したら、アマゾンをはじめとするインターネット通販、そして「配送無料」などはどうなるだろうか。
そんなものはどうにでもなるし、状況が動けばビジネス機会をものにする企業は必ず出てくる。また、ヤマトの経営陣はそんなことまで考える義務はない。
「小手先のことより抜本的なことを」――。それが経営戦略的なアプローチであり、選択だろう。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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