顧客へのポイント還元を手厚くしたことで、国内EC(電子商取引)事業の取扱高は増え、主力のネット通販の売上高は伸びた。だが、ポイントの付与率を高めれば高めるほど費用は嵩む。ポイントは、将来の使用見込みを見積もった上で、引当金として損失を計上しなければならないからだ。その結果、販促費などが2割膨らみ、ネット事業のセグメント営業利益は前期の909億円から555億円へと38.9%も減少した。営業利益は設立以来、初めてネット事業が金融事業(655億円)を下回った。
記者会見の席上、三木谷氏はネット通販事業の競争が激しくなるなか、「劇薬で顧客を奪い取るのでなく、漢方薬で末永く楽しく使ってもらうために、ポイントの還元策を今後も継続する」とした。
セールを年間通して続けている現状から、引くに引けなくなっているのだ。ポイントの還元をやめれば、利用者が競合他社に流れるのは目に見えている。ポイントの大盤振る舞いは、三木谷氏が主張するような副作用が少ない漢方薬ではない。ドラッグ依存症と同じ、“ポイント依存症”という重大な副作用をもたらした。
海外M&Aの失敗で多額の減損を計上
三木谷氏が中心となって推進してきたM&A(合併・買収)で手に入れた海外事業の多額の減損が、業績の足を引っ張っている。楽天は10年以降、電子書籍販売のカナダのコボ、ネット通販のキャッシュバックサービスを手掛ける米イーベイツなど、海外で大型買収を繰り返してきた。大型M&Aをテコに、20年度に海外売上比率を5割に引き上げるという大きな目標を掲げた。
しかし、海外戦略は頓挫した。15年12月期に、ネット通販の仏プライスミニスターやコボなどの「のれん」代を、減損損失として381億円の損失を計上した。さらに16年12月期は動画配信のVIKIなどの減損損失を243億円計上した。それでもまだ、12月期末時点で、3584億円の「のれん」代を抱えており、今後も減損リスクは高い。
そこで海外では、拡大路線から一転してネット事業の撤退を決めた。10カ国・地域以上で展開していた楽天の海外ネット通販事業は、米国や台湾など5カ国・地域に縮小した。これにより、「20年度に海外比率5割」の達成は絶望的となった。
株価上昇策としての自社株買い
減益決算の発表以降、楽天の株価は下落を続けた。そこで株価を上昇させるための即効薬といわれる自社株買いに踏み切った。2月21日、1000億円、1億2000万株を上限とする自社株買いを発表した。自社株を除く発行済み株式の8.4%に相当する。
大規模な自社株買いを好感して楽天株は2月22日、一時前日比12%高の1158円まで上昇した。楽天株は16年9月7日に付けた昨年来高値(1462円)から、自社株買いを発表する日までに3割近く下落していた。確かに、アナウンス効果はあった。
しかし、主力の楽天市場などネット通販事業の収益力の低下に関する疑念は、くすぶり続けたままだ。ポイント依存症から抜け出せなくなっているからだ。
三木谷氏は、「4~9月に向けて収益は回復していく」と強気の見方を示しているが、株式市場では半信半疑だ。「安売りセールを連発して収益力を落とした姿は、どこか総合スーパーと二重写しだ」と辛辣な評価を下すアナリストもいる。
3月24日の楽天株の終値は前日比10.5円安の1095.5円。株価上昇の勢いは、いまひとつである。
(文=編集部)