コダックになるのか、富士フイルムになるのか
ニコンの年商7,500億円のうち、映像事業は3,800億円を占めている(いずれも17年3月期予想)。ニコンはまだかろうじて半分強をカメラで稼いでいる会社だ。
カメラ業界におけるこの20年間の技術革新は、関連する大企業をも巻き込み、勢力図の大きな変化を引き起こしてきた。
デジタルカメラの導入により銀塩フィルム・メーカーは総崩れとなり、世界的な優良メーカーだったコダックは倒産し、一方の雄だった富士フイルムはその事業ポートフォリオをすっかり刷新して盛業してきている。フィルム・メーカーのそんな変遷を私は「イノベーションのジレンマ」セオリーで解説し、デジタルカメラがこの場合「破壊的技術」だとしてきた。
今回、カメラ全体に対しての「破壊的技術」として台頭してきたのが、もちろんスマートフォンである。
代表的なカメラメーカーであるニコンのカメラ製品ポートフォリオは、大きく3つある。コンパクト・デジタルカメラ、ミラーレス・カメラ、そして一眼レフカメラである。これら3つの分野でニコンはすでに第1位のシェア・ホルダーではない。スマートフォンの挑戦にさらされているニコンは、この3分野のそれぞれで、どう戦おうとしているだろうか。
まずコンパクト・デジタルカメラの分野では、もう負け戦だ。前述したように、2月に投入予定していた新機種3種の発売を中止してしまった。
次に3分野のなかで唯一市場が伸びているミラーレス・カメラでは、富士フイルムが1月に意欲的な新商品「FUJIFILM GFX50S」をリリースしている。同社の古森重隆会長は、次のように強い意欲を表明している。
「『デジタルカメラ市場の主役が、35ミリ一眼レフカメラからミラーレスに代わる歴史的な転換点だった』と後に言われるようにする、という決意表明です」(「週刊ダイヤモンド」<ダイヤモンド社/4月4日号>より)
ニコンは結局カメラ・メーカーとしても、一眼レフ分野での特殊な高級機種メーカーとして名を残すだけであろう。フィルムの場合、富士フイルムにおけるコダックとの大きな違いは、強力なリーダーシップを持っていた古森重隆社長(当時、現会長兼CEO)の存在があった。そしてその古森社長が喚起に成功した全社的な危機意識である。そんな経営者と組織にみなぎる危機意識が、ニコンには見当たらない。
東芝の途をたどるのか
中期的にニコンには、現在東芝に起きているようなことが起きるだろう。
全事業のなかで唯一しっかり黒字を出しているのが、FPD露光装置である。東芝が虎の子の半導体事業の売却に動いているように、ニコンも数年するとこの部門を売却せざるを得ない場面がくるだろう。
半導体露光装置からは、早晩撤退せざるを得ない。そしてその時に牛田社長が責任を取らなければ、会社としてのガバナンス体制が問われることになる。
映像事業(主としてカメラ)は、いわば一眼レフ部門に逃げ込んで、一部のファンからの強い支持を受け続けることができるかもしれない。しかしその場合でも、17年3月期3,800億円と予想されるこの分野での年商も1,000億円を下回ることになる。
結局、7,500億円の年商規模(17年3月期予想)のニコンが、会社全体として年商1,000億円に届かない会社になるシナリオである。その場合、社員数も7分の1にしないと、存続する算数が合わなくなる。
名門企業に対してなんたる予想か、といわれるだろうが、カメラ業界を見渡せば、コニカはミノルタに合併され、そのコニカミノルタは06年にカメラから撤退した。ヤシカという会社は、今はない。京セラも05年にはカメラから撤退している。
デジタルカメラの出現が銀塩フィルムのメーカーを駆逐し、今度はスマートフォンが出現したことにより、カメラ業界全体が淘汰されようとしている。クレイトン・クリステンセン博士が提唱した「イノベーションのジレンマ」現象がリアル・タイムで進行しているのだ。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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