総務省の見解
そこで今年2月15日、総務省会計課に博報堂の回答趣旨を説明し、延べ12回しか掲載されなかった理由を質問した。これに対して同省は、契約書にある次の条項を根拠として提示してきた。
「第18条 甲および乙は、この契約の締結後、天災地変、法令の制定又は改廃、その他の著しい事情の変更により、この契約に定めるところが不当となったと認められる場合は、この契約に定めるところを変更するため、協議することができる。
2 前条第2項の規定は、前項の規定により契約金額の変更に関して、協議を行う場合に準備する」
「前条第2項の規定」とは、「協議が行われる場合は、乙は、見積書等甲が必要とする書類を作成し、速やかに甲に提出するものとする」という規定を指す。
契約書の有効期間における社会状況などを検証すると、国勢調査の政府広告の掲載予定を変更しなければならないような、「天災地変、法令の制定又は改廃、その他の著しい事情の変更」は見当たらない。少なくとも筆者が総務省に情報公開請求した見積書に、変更に伴う見積書は含まれていなかった。
そこで当サイトが改めて総務省に問い合わせたところ、同省は次のような回答を寄せた。
「調査が近づくにつれ『かたり調査』等の発生事案が増加してきたことから、円滑な調査を実施する上で、全国の調査対象世帯に向け、注意・喚起を行う必要が急遽発生した。したがって、契約書第18条第1項の「その他の著しい事情の変更により・・・」に基づき協議し、契約金額に変動がない範囲で当初予定していた新聞広告の出稿回数等の見直しを行い、より広報効果の高いテレビCM等に振替を行ったものであり、契約不履行ではないことから、契約書で定めた金額を支払った」
だが、「かたり調査」は日常的な問題になっており、総務省のウエブサイトでも注意を呼び掛けている。予測できたはずだ。
不自然な公文書
さらに、筆者が総務省に確認したところ、新聞広告からテレビCMへの変更の際に提出が義務づけられている見積書が存在しないことがわかった。そして同省は、以下文書を筆者に提出した。
これによると、テレビCMの間引きにより生じた予算残のうち、「広報用ポスター(4種)作成経費」として1500万円を、「TVCM(かたり調査への注意編)作成経費」として、1044万円を支払うことにした旨が記されている。
ところが筆者がこの文書(PDF)のプロパティを調べたところ、作成日が17年3月29日になっていたので事情を尋ねたところ、元の書面をPDFにしたのが同日だと説明した。つまり「かたり調査」が発生した時期に作成したものだというのだ。しかし、作成部署も作成年月日も記されておらず、公文書にしては極めて不自然である。
さらに筆者がテレビCMを放送した証明書である放送確認書の提示を求めたところ、「放送確認書については、履行確認が終了し、処分しております」との回答であった。これを受けて、筆者はメールで次のように総務省へ問い合わせた。
「ご連絡ありがとうございます。添付されたものは、いつ誰が作成されたものでしょうか?PDFのプロパティによると昨日になっていますが、昨日作成したものを、平成27年度の文書として提示すれば、公文書偽造で刑事告発の対象になります。また、放送確認書を処分したとありますが、保存期間を過ぎていないのではありませんか」
繰り返し総務省に回答を要求したが、期限を過ぎても回答はない。
国勢調査は国家の重要な事業である。そのような事業において、もし政府広告の間引きが行われていたとすれば、重大な問題といえよう。
(文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者)