「『みんなのローソン』にしていく」とは、玉塚氏がローソン社長に就任した14年に宣言した言葉だ。「17年度には連結営業利益1000億円を目指す」(14年3月24日社長交代会見)ともしていた。しかし、17年2月期は737億円で終わった。仕上げていない。
玉塚会長はまた、15年からは「1000日実行プラン」と銘打った改革を実行してきたが、その成果を見届けないままに退任を申し出た。私の目には「また途中で投げ出してしまった」と映る。
かつて「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/14年11月22日号)が『ローソン社長 玉塚元一の逆襲』という特集記事を掲載している。「負け続けたプリンス」という副題が付いており、「大学ラグビー、ユニクロ…。最後の最後で勝利を逃す男、玉塚元一。大手コンビニで人生最大の逆襲に打って出る」と、遠慮のない表現をしていた。その「人生最大の逆襲」から、またも玉塚氏は降りてしまったのか。
周知のように、ファーストリテイリングの社長に一度は就任した玉塚氏は、やがて柳井正氏に解任される。この解任について両人はその後互いに情けのある言辞を交換しているのだが、柳井氏が経営者としての玉塚氏を評価しなかったことは厳然たる事実だ。
その後、企業再生会社リヴァンプを創業し共同代表となるが、目だった実績はない。かろうじてハンバーガー・チェーンのロッテリアの経営再建に当たったことは知られている。玉塚氏は06年1月にロッテリアの会長兼CEOに就任して自ら経営の任に当たった。同社は公開会社でないので詳細な財務実績は不明だが、玉塚氏が就任した翌年の07年3月期の年商が155億2,700万円と、就任前と比較して16.1%減(年換算比)になったという報告がある(経済新人会マーケティング研究部 ファーストフード業界2班)。
マクドナルドが使用期限切れ鶏肉使用で大きく売り上げを落としたときが年商減少率で15%だった。玉塚ロッテリアは大きな問題も報じられなかった着任初年度に、マクドナルドの最悪の年よりも悪い年商減率を記録している。また、ロッテリアの店舗数は07年9月に469店あったのだが、11年6月には398店に減少している。
惨状を呈していたロッテリアからローソンに玉塚氏が転出したのが10年のことだったから、「投げ出してしまった」と言われても仕方ない。
プロ経営者はどこに行く
玉塚氏は人間的な魅力があるので、ついつい「自分の後継経営者に」とか「不調なこの会社を任せたい」と思わせるのだろう。それは素晴らしいことだ。ローソンの店舗オーナーからは「タマちゃん」と呼ばれ親しまれていたという。
しかし、そういう人間的魅力と経営能力との整合性は、どれだけあるものなのか。16年に入って玉塚氏は「これからはオール三菱で当たろう」とか「三菱グループとしての強みで戦う」などとしていた。玉塚氏は退任会見で次のように述べた。
「三菱商事を巻き込んで、総合戦闘力を生かしていこうということを発信したのはそもそも私自身」
「1500億円をぶち込んで、過半数の株式を取得するTOBをされることには正直びっくりした」(共に17年4月13日付東洋経済オンライン記事『ローソンの玉塚元一会長が電撃引退する事情』より)
正直なところは、お人の良さ、育ちの良さが窺われて好感が持てる。
今回の玉塚氏の退任発表を受けて、あるメディアは「プロ経営者は次にどこに行く?」と報じていた。
スター経営者である玉塚氏のことだから、次の挑戦機会も引く手あまたのことだろう。しかし、「プロ経営者」というのは玉塚氏のどこを指して言っているのか、私にはわからない。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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