トランスジェンダー男子の入学拒否は憲法第14条に違反するか
これを本件に当てはめてみるに、「国立の女子大がトランスジェンダーの男子の入学を拒否する」という方針について、「(1)目的の合理性」を否定することは難しいと思われます。
なぜなら、大学としての自治や、他の女子生徒への配慮、男子トイレがないなどの施設管理における弊害など、区別する目的自体がおかしいという議論は成り立ちにくいと考えられるからです。
もっとも、「(2)区別と目的との合理的関連性」については、もう少し議論が必要です。
たとえば、他の女子生徒の心情に配慮しなければならないという点については、極論をいえば、生物学的には女性ですが、極めて男性に近い恰好をした女子生徒の入学は許可されるのに、女性に近い恰好をしたトランスジェンダー男子の入学を認めないことに合理性があるかどうかという議論です。
つまり、ファッションや姿恰好でただちに男女の判断をすることがなかなか難しい今日、単純に「見た目」において「キャンパスに男性っぽい人がいることが嫌だ」「不快だ」という主張の整合性を保つことは難しいのではないかということです。
もちろん心理的に生物学的な男性がいることに対し不快である方もいるとは思いますが、そのような主張とトランスジェンダーの権利のどちらを優越させるべきなのかという点については、一概に判断できるものでないことは間違いないでしょう。
また、一律に男子の入学を拒否するという手段によらずとも、
(1)診断書や面接・面談などを行い、真にトランスジェンダーであると認められた者についてのみ入学を認めたりする。
(2)そのような者については、更衣室やトイレなどの施設利用に関し一定の制限を加えるなどの方法によれば、施設管理の点でも大学側の利益を大きく損なうものとはいえないとも考えられます。
以上からすれば、「(2)区別と目的との合理的関連性」という点で、国立の女子大がトランスジェンダー男子の入学を「一律に」拒否することは、平等権侵害として憲法第14条違反となり得るといえます。
憲法上の教育を受ける権利(憲法第26条)の問題
憲法第26条は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しています。ここで、「女子大で教育を受ける権利」というものが存在するなら、トランスジェンダー男子にとって、このような教育を受ける権利を侵害された、という主張もあり得るでしょう。
もっとも、国が国民等にどのような教育を施すかについては、基本的には、「国」の施策によるものであり、ここではあまり議論の対象にはならないと思われます。