この問題に対する一般的見解
まず、「トランスジェンダー男子の女子大への入学」について否定的な立場からは、以下の見解があります。
・女子大であることを理由に(周りに同性しかいない)大学に入学した他の女子生徒やその保護者の心情にも、配慮する必要があるのではないか
・トランスジェンダーであるかどうかの見極めは曖昧な部分がある面も否めず、真に女性として入学したいとの真摯な思いではない人の入学についても許容せざるを得なくなるのではないか
・女子大ではなく、共学という選択肢もある
これに対し、肯定的な立場からは以下の見解があります。
・国際的に性の多様性を許容し、トランスジェンダーなど性の少数者の権利を十全していくべきだという流れに、日本も追従していくべきではないか
・医学的にもある程度、トランスジェンダーであるか否かの判断をなすことが可能になってきており、その精度も上昇していくと考えられる
・師事したい教授が所属している、特定の教育カリキュラムが存在するという点で、その大学でしか学べないことがあるのであれば、その大学だからこそ入学したいという思いを持った学生の意思を尊重するべきである
結論
結論としては、「トランスジェンダー男子の女子大への入学」は制限的に認めるべきであると考えられます。本当にトランスジェンダーであるかどうかという点では、医師の診断書の提出は必須でしょうし、入学前の面接、施設利用権(共同の女子更衣室の使用制限)を制限するなど厳格な要件を課したり、他の学生や保護者への説明会を開催したりするなどの運用が必要になるとは思いますが、女子大側には、これらに対し前向きに努めてほしいと思います。
なお、誤解されている方も多いので補足すると、性同一性障害をもつ人の出現率は、男性で10万人に1人程度、女性で40万人に1人程度といわれており、また性転換手術は容易にできるものではありません。
もちろん、ひとたびトランスジェンダー男子の入学を認めれば、性の多様化が進む現代において、他の性的少数者の入学も認めるべきではないかなど、議論が深刻化していく懸念もある以上、性の定義・概念という曖昧、センシティブな分野において、その権利主張を認めることに躊躇するというメンタリティーは大いに理解できます。今後も国民全体としての議論や検討が必要であると考えます。
(文=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士、高橋駿/早稲田大学大学院法務研究科)