また、小さくても事業のオーナーになることで必然的に行動範囲や交流する人の幅も拡がり、雇われている状態とくらべて責任感が格段に強い状態で物事を見るために、視野が広く深くなっていきます。その知見や研ぎ澄まされた感覚が、会社員としての仕事に生きてくることも多々あります。これも、会社員を辞めるべきではないと考える理由です。
マンション投資よりも
実態として、金融機関からこうした投資・買収のための資金融資はまず受けられないので、ある程度の貯金は必要です。たとえば筆者の場合、買収に必要だった資金は、仲介手数料を含めても1社あたり、筆者が実際に保有していた横浜市内の築30年のワンルームマンション1部屋(20平米)の売却価格で賄える金額です。決して安くはありませんが、用意できない金額ではないとは思います。そして、それで売上が1億円を超えている(ただし、利益はそんなには出ていません)というと、見ようによっては買い叩くようなやり口を想像されるかもしれません。
しかし、前オーナー体制で財務や後継者の問題を抱えて先が見えない状態からの事業の承継なので、当事者からはそうは思われてはいなかったでしょう。その会社に融資していた金融機関への債務も引き継いで返済を続けているので、個人保証が実行されたわけでもありません。
もちろん利益の出ている優良会社のなかにも、後継者不在のために引き継ぎ相手を探しているオーナーはいます。そうした会社はとても高額になるため、なかなか個人では手を出せないレベルになってしまいます。ただし、お金の問題をクリアして引き継いだあとは、もともと利益は出ているので、それほど苦労しないですむというメリットがあります。どちらが向いているかは個人の財政状況や志向とのバランスで判断することです。
後継者不足で悩むオーナーは増えていく一方なので、いろいろな機会が拡がっていくはずです。もちろん事業を営むことは規模や業種に関係なく、とても難しいことですので、誰にでもできることではありません。ただ、以前は大企業で活躍されていた方が合理的ではない事情で閑職に追いやられているような姿を見ると、目の前の業務や生活に支障が出ない範囲で取り組んでもいいような領域ではないかととらえています。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)