満を持して投入したトヨタ車の顔であるハイブリッドカー(HV)新型「プリウス」の販売が一向に盛り上がらない。セダン系モデルが不人気なのに加え「ガソリン価格が下落して、HVに誰も振り向かなくなっている」(自動車メーカー)。トヨタでは「SUVとピックアップトラックの供給能力を増やして、過度なインセンティブ競争に陥らないように適切にコントロールしたい」(トヨタ・永田理副社長)としているが、時すでに遅しといった状況だ。
自動車メーカーに一定台数以上の環境対応車販売を義務付ける米国カリフォルニア州の環境規制は、18年から段階的に強化される予定だが、新しい制度からHVは環境対応車として認められなくなる。環境対応車としてHVを最も重視してきたトヨタの戦略ミスを露呈したかっこうだ。
強い危機感
今期の業績見通しは、グループのグローバル販売台数を16年度とほぼ横ばいとなる1025万台を見込む。このうち北米は、同市場で主力モデルである「カムリ」をフルモデルチェンジするにもかかわらず、同0.6%減の282万台とマイナスを予想する。
収益面でも引き続き米国のインセンティブ増加などによる収益の悪化で、全社の営業利益は同19.8%減の1兆6000億円と大幅減益を予想する。営業利益率は前期と比べて1.4ポイント悪化して5.8%にとどまる見通しだ。豊田社長は「2期連続の減収減益はスポーツの世界でいえば連敗になる」と述べ、トヨタの業績が縮小することに危機感を示す。
トヨタは、年間新車販売が「1000万台を超え、大きくなりすぎたことが問題」(豊田社長)としている。組織や人員規模が巨大化したトヨタは、リーマンショックによる金融危機で市場環境が急変すると一気に効率が悪化、うまく対応できないまま09年3月期に59年ぶりの赤字に転落した。
豊田社長が2期連続の減収減益に強い危機感を抱くのは、こうした市場環境の急激な変化に巨大化したトヨタは対応できないからだ。特に自動車産業は、米テスラなどの新規参入や、グーグル、ウーバー・テクノロジーズなどの米IT大手が存在感を高めている。「パラダイムシフトが求められており、AI(人工知能)自動運転、コネクテッドなどの新しい領域が重要なカギを握る」(豊田社長)と、トヨタといえども勝ち組であり続けることは簡単ではない。
前回赤字転落した際、社長だった渡辺捷昭氏に全責任を負わせるかたちで辞任させ、豊田氏が社長に就任した。「仮にトヨタが再び赤字転落したとき、今度は自分が社長の座を追われることをもっとも懸念している」(経済ジャーナリスト)という。当面、減収減益予想をいかに挽回できるかにかかっている。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)