アップルに振り回されたJDI
経営判断の狂いはほかにもある。15年3月、スマートフォン(スマホ)向けの液晶パネルを生産する石川県・白山工場の建設計画を発表した。建設費や製造装置を含めた総投資額は1700億円。資金の大半を、アップルからの前受け金で賄い、16年5月の稼働を目指していた。スマホ換算で月産700万台分の液晶パネルを生産する予定だった。だが、14年秋発売のiPhone6の販売不振を受け、アップルは16年9月発売のiPhone7の生産台数を当初予定から大幅に減らした。当然のことだが、JDIの受注量は見込みを下回った。しかも、アップルは17年以降に発売するスマホに、液晶ではなく有機ELを採用することを決めた。白山工場は完成したが稼働は延期となり、「稼働しない最新鋭工場」と呼ばれた。そのためJDIは一時、白山工場を売却することも検討したという。
かつての親会社である日立製作所や東芝は、保有していたJDI株の全株を売却した。「JDIの将来性に見切りをつけた」(業界関係者)と評判になった。白山工場は、予定より遅れること半年、16年末にやっと生産を開始した。高価格帯の中国スマホ向けの需要が増えたことで、ようやく操業にこぎつけたわけだ。
革新機構は、JDIの救済策として「日の丸液晶」プランをぶちあげた。経営が悪化したシャープを革新機構が買収して、シャープの液晶事業をJDIと統合させる構想を練った。ところが、シャープは台湾の鴻海精密工業にかっさらわれた。革新機構が次に捻り出した救済プランが、有機ELパネルを手がけるJOLED(ジェイオーレッド)をJDIの子会社にすることだった。JOLEDは印刷技術による有機ELの開発を進めているが、量産への道のりは遠い。
JDIは6月の株主総会を経て、本間氏が会長兼CEOを退任し、有賀氏も平取締役に降格することが決まっていた。そして、子会社化する予定のJOLED社長の東入氏を社長兼CEOとして迎える予定だったが、前述したように突然、変更になった。
JOLEDは革新機構がJDI、ソニー、パナソニックの有機EL事業を統合して15年1月に設立した会社で革新機構が75%出資している。つまり、JOLEDとJDIは革新機構の兄弟会社なのである。東入来氏は長くディスプレイ業界に身を置き、イスラエル企業の経営を15年間担ってきた。だが革新機構が、思いつきで経営に介入する体制が続く限り、誰がトップになっても短命で終わるという醒めた声が社内外にある。