今は、棋士の誰もが将棋ソフトを研究している。彼も当然研究しているし、将棋にもそれが表れていると筆者も感じてはいたが、強くなったきっかけが将棋ソフトかもしれないという指摘には驚いた。
彼は、人間が長年にわたって築き上げてきた将棋と、近年急速に発展した将棋ソフト(AI)と、自身の才能を理想的なかたちで融合させているのかもしれない。10代、いやもっと若い子どもたちの、汚れのない柔軟性のある脳細胞と、人間の想定を超えるAIの脳細胞が融合すると、類まれな才能が開花するかもしれない。今は、人間がAIと共存する時代になってきた。今まで以上に、もっともっと子どもたちにAIを利用させると、大人が考えもしない新たなものが生まれるかもしれない。
良きライバル
もうひとつは、強くなるためにはライバルが必要だということである。
山村さんは、羽生三冠(46歳)が強くなったのは「才能だけでなく森内十八世名人(46歳)や佐藤将棋連盟会長(47歳)など、同世代に強いライバルが何人もいたからだ」と言う。ライバルと切磋琢磨することで強くなるのだという。藤井四段は、あまりにも若くしてプロデビューをしたので、今のところ同世代の棋士はいない。
彼が話題になっている要因は、18連勝ということもあるが、羽生三冠も含めた上位棋士と非公式戦で勝利したことが大きい。ところが、最初の非公式戦で勝った羽生三冠との2回目の非公式戦では負けている。今月、愛知県岡崎市で開催された将棋まつりの非公式戦でも、若手の有望株である豊島将之八段(27歳)に負けている。
これは「棋士たちが藤井四段の研究をし始めた結果だ」と山村さんも筆者も見ているが、山村さんはラジオ出演が終わった後の雑談で、「今までは藤井四段の棋譜がほとんどなかったので、他の棋士が研究しようとしてもできなかったからだ」と教えてくれた。
どんな勝負の世界でも、のし上がってこようとする新人を叩き潰そうとする。それでも這い上がってこそ、真の実力者になる。その時に、自分ひとりだけでなく同世代の仲間がいると心強い。「あいつもがんばっているから、俺もがんばろう」「あいつだけには負けたくない」といった気持ちで自分を奮い立たせることは、成功への道につながるものだ。
ただ、こればかりは運命だから自分ではどうしようもないところがある。しかし藤井四段には、同世代に近いライバルがいる。20歳の近藤誠也五段だ。