小池百合子都知事は6月20日、東京・築地市場の移転問題について、市場を豊洲に移したうえで築地を再開発し、5年後をめどに一部業者を戻す方針を表明した。小池知事は「築地は守る、豊洲を生かす」と胸を張ったが、本稿ではこの「折衷案」は失敗する可能性が高いと考えられる理由について解説したい。
理由1:再開発で築地ブランドは消滅する
なぜ、今の築地に人が集まるのか。そこには「昭和がある」からだ。場内、場外ともに、まるで路地裏の長屋にひしめくように、寿司屋をはじめとする飲食店、魚屋、練り物などの惣菜屋、乾物屋、雑貨屋などが、所狭しと並んでいる。あのごちゃごちゃ感が、とてつもなく心地よいのだ。
世界屈指の大都会である東京に、そこだけ映画『ALWAYS三丁目の夕日』のような昭和を感じさせてくれる異空間がある。ちょっとレトロでノスタルジックな雰囲気に酔いしれることができる。そのギャップに、日本人だけでなく外国人も魅せられる。
しかも、その隣には日本一の中央卸売市場がある。その市場も、豊洲のような近代的かつ閉鎖的な施設ではない。人が自由に出入りすることができ、市場で働く人たちを身近で感じることができる。外国人観光客は、場内市場を自由に歩き、世界的にも珍しい風景に感激し、ひたすらカメラや携帯電話のシャッターを切る。
多くの外国人観光客は、築地で魚や乾物を買うわけではない。朝食やランチに寿司を食べる人もいるが、人間味を感じる場内市場を目当てに来る。場外市場より飲食物販を除いた場内市場のほうがはるかに魅力的なのだ。
日本人も、卸売市場に隣接された寿司屋や魚屋だからこそ、新鮮さやお得感を感じて、わざわざ築地に足を運ぶのだ。豊洲から運ばれてくる魚なら、わざわざ築地に行って食べたり買ったりしない。新宿でも渋谷でも大して変わらない。鮮度も、地元のスーパーで売っている魚と差があるとは感じない。築地で売られている魚が安くないことを、消費者は皆知っている。上野・アメ横のほうが安くて、品数が豊富で魅力的だ。めったに行かない築地だからこそ、観光地に来た気分で食事をし、お土産として魚を買っていくだけだ。
では、人々は卸売市場のない築地に魅力を感じるだろうか。そもそも、場内を移転し場外を残すと決めた時点で、築地ブランドの価値は半減あるいはほとんど消滅したといってよい。