トップ留任に後ろ暗いところがあったのか、益子氏は今回の定時株主総会で社長職をなくし、CEOのみとすることを表明。「アライアンスのなかで活動するのに(三菱自の)業務執行の最高責任者としてCEOのほうが現実的」(益子氏)と述べ、三菱自のトップに居座るのでなく、ルノー日産・三菱自アライアンスのなかでの一役職にすぎないことを強調した。
益子氏の留任には多くの株主からの反発がありながらも、ゴーン氏は最終的に「議決権の結果で決まる」と資本の論理で押し切った。そもそも三菱自は今回の定時株主総会から日産のやり方を導入した。それは質問を希望する株主にはあらかじめ申請してもらい、くじ引きで質問者を決めるものだ。何人質問するかは議長であるゴーン氏の裁量で決められ、一定の時間が経過すると半ば強引に質問を打ち切るやり方だ。
益子氏の茨の道
こうしたやり方が通用するのも、日産が三菱自に34%出資しているほか、三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行の三菱グループ3社合計の出資比率が20.8%。日産と三菱グループで出資比率が54.8%と過半数を占めるからだ。経営陣が上程するすべての議案が承認されることは確実だ。それでも株主総会で他の議案の賛成は99%前後だったのに対して益子氏を含む取締役選任の議案の賛成率は83.4%にとどまった。
資本の論理で三菱自トップの続投が決まった益子氏だが、ゴーン氏から課せられた宿題は重い。日産傘下に入った三菱自は今秋に中期経営計画を策定する。新車販売を19年度に17年度計画比25%増となる125万台、売上高営業利益率6%を掲げる。ゴーン氏はコミットメント(目標必達)経営を標榜しており、長年の友好関係にある益子氏も、これに関しては例外ではない。それは日産の業績が悪化して相次いで下方修正した際、ゴーン氏は自らの責任はさておき、最有力後継者だった志賀俊之氏(当時COO<最高執行責任者>)を更迭したことでもわかる。
ゴーン氏は益子氏の続投について「来年、再来年の結果に基づいて判断してほしい」と述べ、株主に過去ではなく未来を見てほしいと訴えた。逆にいえば、三菱自の業績が計画を下回るようなことがあれば益子氏は切られる運命にある。
自動車業界はグローバルで販売競争が激化しており、販売台数の増加と利益率アップの両立は難しい。ゴーン氏のバックアップによって三菱自トップの地位に恋々とする益子氏だが、茨の道は続きそうだ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)