金融庁主導の金融再編が挫折
そんななか、金融庁の森信親長官の続投が決まった。3年目に入るが、当初は2年での退任が有力視されていた。なぜなら森氏は、11年から14年まで長官を務めた畑中龍太郎氏が3年目に入った際、「居座り」と公然と批判していた。そのことを金融関係者なら誰でも知っているだけに、3年目は受けないとみられていたが、官邸の強い要請というかたちで留任した。麻生太郎副総理・財務相・金融担当相、菅義偉官房長官の意向とされる。
森氏は2015年7月、金融庁長官に就任した。バリバリの金融再編推進者である。「経営統合は重要な選択肢」――。金融庁は地方銀行のトップにことあるごとにこう迫り、大型再編の種を蒔いてきた。
地銀は、人口減少や地域の産業の停滞といった根本的な問題を抱えている。今後10年でみると、経営環境はより深刻になるとして、金融庁幹部は「ゆでがえるのような状況になる前に、将来像を考えてほしい」と地銀を説き伏せてきた。金融庁が目指すのは、県境を越えた地銀の広域再編だ。
14年以降だけで地銀の経営統合は6件あり、18年春にかけて三重銀行と第三銀行、関西アーバン銀行、みなと銀行、近畿大阪銀行の関西3行などの統合計画が進んでいる。
森氏が地銀の広域再編のモデルケースとして後押ししてきたのが、ふくおかFGと十八銀行の経営統合だった。だが、長崎県首位の十八銀行とふくおかFG傘下の親和銀行が合併すれば県内の貸出シェアが7割に上ることから、公取委が統合に待ったをかけた。
この事態に金融庁は前面に出てきた。金融庁は3月8日、長崎で地元関係者の理解を得ることを目的とした説明会を開いた。金融庁が地銀の経営統合の意義・目的について公式に説明するのは初めてで、極めて異例なことだ。
金融庁で地域金融を統括する西田直樹審議官(監督局審議官)が、地元の経済界や記者向けに約2時間にわたって説明した。金融庁は「統合は地銀判断で、当局が促すものではない」というのが基本的立場だが、安倍晋三政権は「地方創生」を掲げており、地銀再編を通じた金融仲介機能の強化は不可欠だ。ふくおかFGと十八銀行の経営統合を何がなんでも実現させたいという意気込みで乗り込んだ。