安いのに高品質を保てるワケ
これだけ安いと「安かろう悪かろう」と考えてしまいがちだが、サイゼリヤには当てはまらない。先述したように、ワインはイタリアから直接輸入し、ほかの食材も厳選したものを使用している。良いものをリーズナブルな価格で提供しているのだ。
サイゼリヤは「製造直販業」を目指し、食材の生産から加工、配送、店舗での販売までを一貫して自社で行う体制の構築を推し進めている。そうすることで、すべての工程に責任を持つとともに、中間コストを削減することができる。そのため、高品質の商品を低価格で販売することができるのだ。
パスタやオリーブオイルなどはイタリアから輸入し、一部の野菜は関連会社の農場で生産している。たとえば、レタスの種をメーカーと一緒に開発し、農業生産法人の白河高原農場でコメやパセリなどと共に栽培している。また、東日本大震災の復興支援の一環として、宮城県仙台市でトマト農場を始めている。
食材の製造も一部自社で行っている。たとえば、ハンバーグやミラノ風ドリアで使うホワイトソースは、オーストラリアにある自社工場で製造している。製品の製造は、当初はセントラルキッチン(特定の拠点で集中的に調理する方式)で製造していたが、のちにメーカーの工場を活用するようになり、今は国内に数カ所ある自社の食品加工流通拠点で対応している。
このように手間暇をかけることで、サイゼリヤは「高品質で低価格」を実現しているのだ。製造から販売までを手がける企業としては、ユニクロやニトリが有名だが、それに近いかたちを飲食業で実践していることは、特筆に値するといえるだろう。
ここまでのこだわりようは、創業者で現会長の正垣泰彦氏に依るところが大きい。同氏は1973年にサイゼリヤの経営を開始したが、路面店ではなく建物の2階での営業ということもあり、客はまったく来なかったという。
どうやったら客に来店してもらえるのかを必死に考え、とりあえずメニューの価格を5割引にしたが、それでも客はほとんど来なかった。そこで決死の覚悟で7割引にしたところ、客が大挙して来店したという。それまで客数は1日20人程度だったが、一挙に600〜800人まで増えたという(『サイゼリヤ 美味しいから売れるのではない 売れているのが美味しい料理だ』<正垣泰彦/日本経済新聞出版社>より)
こうした経緯もあり、サイゼリヤは低価格を売りにするようになった。海外でも同様で、たとえば中国でも当初は売れなかったが、最終的に7割ほど価格を下げたところ、客数が1日100人だった店が3000人押しかけるほどになったという。
このように、低価格を武器にサイゼリヤは成長した。そして、今も拡大傾向にあり、売上高や店舗数は伸びている。