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舘内端「クルマの危機と未来」

ガソリン車、世界的に禁止へ…日本の自動車メーカー、大規模な人員削減と下請け淘汰必至

文=舘内端/自動車評論家

電池メーカーがイニシアチブを握るか

 EV化によって大幅に雇用を増やすのは、電池メーカーである。小さな自動車メーカーであれば飲み込んでしまうほどの規模の電池メーカーが出現するだろう。

 エンジン車からEVへの転換は、自動車産業の大幅な構造転換であり、自動車産業は縮小すると考えるべきだ。自動車メーカー内では大幅な社員の削減、配置転換あるいは転職の推進が、協力企業は自動車事業に代わる新たな事業計画が必要だ。

 そこまでして、エンジン車をEVに転換する必要はあるのだろうか。

エンジン車の苦悩

 
 世界でもっとも早くモータリゼーションの始まった米国は、世界でもっとも早くから排ガス規制を実施した。エンジン車による大気汚染はカリフォルニア州を悩ませ、戦前から排ガス規制が始まったのだ。1908年に発表されると19年間で1500万台以上も売れたT型フォードに始まる米国のモータリゼーションは、たった30年ほどで米国の主要都市の大気を汚染してしまったのだ。
 
 それからおよそ100年。自動車は、今度は途上国の大気を汚染するばかりか、自動車先進国の大気汚染も拡大するに及んでいる。

 一方、世界の石油の半分を消費してしまう自動車は、エネルギー問題も深刻にしている。このまま自動車の燃料を石油に依存していると、不安定な中東情勢を抱えざるを得ず、自動車のあり方を石油産油国に握られたままとなる。それは、ますます広がろうというモータリゼーションにとって大きな不安要因となる。

 極めつけは地球温暖化問題である。石油を燃料にするエンジン車は、必ず二酸化炭素(CO2)を排出する。そして今やCO2排出量削減(燃費向上)は限界を迎えつつある。

EVは地球を救えるか

 
 エンジン車は、大気汚染、石油エネルギー問題、地球温暖化問題の大きな3つの問題を抱えており、もしこれらの問題を解決できる自動車があれば、それに早急に取って代わられることは明らかだ。EVは、そうした限界を迎えた世界のモータリゼーションの苦悩を救う可能性を持って現れた。電池性能がもう少し向上し、その価格が低下し、充電インフラが整えば、エンジン車に取って代わることは明らかだ。そして、その条件は満たされつつある。

 時代はEVを求め、EVは期待に十分に応えられるだけ進歩し始めた。どうやらEVは必要のようだ。
(文=舘内端/自動車評論家)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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