またしても暗礁に乗り上げた――。
経営再建中の東芝は半導体メモリ子会社「東芝メモリ」の売却について8月31日の取締役会で、米ウエスタンデジタル(WD)、産業革新機構、日本政策投資銀行、米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の陣営に独占交渉権を与える協議をしたがWDとの溝は埋まらず、見送ることとなった。
当初の優先交渉先は革新機構、政投銀、米ベインキャピタル、韓国SKハイニックスの日米韓連合だったが、その後、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)やWDの名前が急浮上。そこで浮上したのが革新機構、政投銀、KKRが計1兆円を出資、銀行団も7000億円を融資し、他陣営への東芝メモリ売却に反対していたWDが1500億円を出資するという案だったが、結局WDは将来の出資比率などをめぐって対立、納得しなかった。その間隙を突くかたちで再びベインキャピタル、SKハイニックスがアップルを加えて巻き返しに動き出し、革新機構などに接近したともいわれるが、今後の落としどころは見えてきていない。
しかし東芝メモリの買収劇の中心にいるのは革新機構だ。
革新機構とは
この革新機構とは何者なのか。設立は2009年7月27日。旧産業再生法、現在の産業競争力強化法に基づき、政府と民間の出資により設立された官民合同ファンド。機構の設置期間は15年間である。政府から2860億円(その後13年度補正予算で健康医療分野への投資のため200億円追加)、民間26社から140億円、個人2人から1000万円ずつ出資を受けている。出資金の95%は財政投融資からだ。さらに金融機関から資金の借り入れを行う場合は1兆8000億円の政府保証枠を持っており、計2兆円の投資能力を持つ。
こうした資金をもとに、先端技術や特許の事業化を支援することなどを目的として、大学や研究機関に分散する特許や先端技術による新事業、ベンチャー企業の有望な技術、国際競争力の強化につながる大企業の事業再編などに投資を行う。投資に当たっては、機構内に設置する産業革新委員会が評価を行い、最終的な投資対象を決定する。しかし「物事を決めるときには経済産業大臣のご意見をいただく」(同関係者)ことなどから、経産省の思惑が少なからず影響することは否めない。