ですので、100万円分の売上のうち、100万円全部を失うことはありません。多くを失うことになるお店は、残念ながら「煙草を吸える」というところが、そのお店の存在価値であって、お店の料理やドリンク、サービスは二の次だったのかもしれません。煙草を吸うスペースが用意されているのに、面倒だからという理由で離れていくのですから、お客さんとのつながりや、お客さんからのお店としての評価は低かったのかもしれません。飲食店として「商品=料理やドリンク」にファンがついていれば、そのお店の必要性は高まり、離れてゆく人の割合は下がってゆきます。
そして、ここで一番大事なことは、「目の前にある計算できる売上には安心感を覚えるが、まだ見ぬ売上に対しては不安であったり、想像もつかなかったりするので、実行に移すことはなかなか難しい」ということです。
これは飲食店だけに限ったことではないと思います。今回の場合は、飲食店における煙草が題材で、失うのは「喫煙者の売上」、得るのは「煙草を吸わない人たちのこれからの売上」、つまり「喫煙店だったために今まで来なかった人の売上」と「喫煙店であることによってこれから逃がすはずだった売上」の合計ですが、まだ見えない売上に対しては、狸の皮算用ですから、臆病になることもうなずけます。
「逃がしていた売上」
飲食店において、似たような問題があります。それは、
「お通しは、なくしたほうがいいでしょうか?」
という質問に現れます。
たとえば、月商300万円のお店で客単価が3000円、お通しが300円でやってきたお店が、最近の流れやお客さんからのリクエストからお通しをなくそうかと考えていました。300円のお通しは客単価の10%分ですから、月商では30万円分あります。年間では360万円分です。これがなくなってしまうのは商売上痛いので、悩んでいたようです。
このケースで失うのは「お通し代」です。では得るものはなんでしょうか。
答えは「お通しがなくなることによって、新しく来るお客さん」となります。場合によっては、お通し300円の代わりになるべく早く出せるメニューを380円くらいで多く開発して、注文をいただくことができれば、既存客の売上(客単価)を超える可能性が出てきます。
実際にあるお店はお通しをなくした結果、売上が増えました。まさに、夕飯代わりに1人客やファミリーが気軽に使うようになったり、お客さんの来店頻度が上がったり、メニュー開発によって逆に客単価が上がったりしました。つまり見えない売上(逃がしていた売上)のほうが実は大きかったのです。
もちろん、必ず同じ結果になるとは限りません。お店によって差が発生すると思います。しかし、お客さんのニーズや心理構造を把握して、自店の現状や今後の方針をベースにトータルで考えて、損か得か、どのような着地がいいのかを「冷静に判断」できると、さらなる繁盛の可能性が高まります。なんでも、失った部分に新しいものが入ってきます。目に見えるものに縛られ過ぎないようにしてみると、より大きな新しいものに巡り合えるかもしれません。
(文=江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部代表)