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千葉哲幸「フードサービス最前線」

「俺の」シリーズ集大成…銀座「俺のGrand Table」高級食材&圧倒的コスパ実現

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
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「俺のシリーズ」の“超”がつくお値打ちメニューの代表格である「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」1280円(税別、以下同)。高級食材を惜しみなく使用している。(俺の株式会社提供)

「ミシュラン星付きレストランの料理を価格2分の1で提供する」という“原価じゃぶじゃぶ”をうたう「俺のイタリアン」の1号店がオープンしたのは2011年9月21日、東京・新橋でのこと。同店は2時間待ちが当たり前、16坪で月商1900万円を超えるという繁盛伝説をつくった。「ブックオフ」の創業者である坂本孝氏(現名誉会長)が立ち上げたもので、のちに「俺の株式会社」と商号変更し、「俺のフレンチ」「俺のスパニッシュ」「俺の割烹」「俺の焼肉」など、洋食・和食のさまざまな業種を銀座を中心に展開、現在は12ブランド37店舗となっている。

 冒頭で述べた「俺のシリーズ」を象徴するメニューは、「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」1280円(税別、以下同)、「トリュフとフォアグラのリゾット」980円、「からすみ蕎麦」980円などが挙げられる。特にからすみ蕎麦は、皿の上に盛り付けた蕎麦の上にからすみを振りかけるのではなく、山盛りになっている。こんな具合に、一品一品は“超”が付くお値打ち品である。

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同じく「からすみ蕎麦」980円。からすみを振りかけるのではなく“てんこ盛り”にしている。(俺の株式会社提供)

「豊かな食の体験をここから発信していく」

 その同社が20年12月15日、新業態の「俺のGrand Market」「俺のGrand Table」をオープンした。場所は昭和通りと晴海通りの交差点で、向かい側に歌舞伎座がある。

 同店は1階が「俺のGrand Market」(35坪)でデリカテッセンとセレクトショップ、約500種類の物販、30~40種類のデリカテッセン、パン6種類などをラインアップ。2階が「俺のGrand Table」(50坪63席)で既存店の代表的なメニューを集めたレストラン、スペシャリテ8種類、トータルで約40品目をラインアップ。どちらも「一流シェフ」「高級食材」「生産者の想い」を掛け合わせてメニューや商品を構成している。

 この業態がこのたびリニューアルした背景について、同社の神木亮氏(常務執行役員 営業本部 副本部長 兼 営業企画部長)が解説してくれた。

「ここは当社のなかでもよい立地にあることから、18年9月に新業態の『俺のBakery&Cafe』をオープンしました。そこでさらに当社の今後の取り組みを発信する拠点にしていきたいと、ベーカリーのみならず、フレンチ、イタリアン、和食、さらに売り方を含めて新しい試みに取り組むことになりました」

 このプロジェクトは20年の4月頃から始まり、6月頃から『単においしいものをラインアップするということではなく、当社の料理長が使っている調味料や食材を深掘りしようという発想になりました。そこで、山梨、長野、岩手、静岡などが産地の製品に関しては、われわれが現地に足を運び、生産者の想いを聞いて、そのストーリーをしっかりと伝えられるようにと考えて進めていきました」

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東銀座、歌舞伎座の向かい側に立地して、外観が映える。(筆者撮影)

 コンセプトは「豊かな食の体験をここから発信していく」。1階では、食品だけではなく、炊飯ジャー、ポット、トースターといった家電も販売している。これは「こんにちはお家時間が重要、調理する段階から『豊かな食を提案する』という発想」(神木氏)からだ。

フードロス対策のアプリで売り切れの状態をつくる

俺のGrand Market」「俺のGrand Table」の料理長は、「俺のフレンチ」のトップシェフであるニコラ・シュヴロリエ氏、社歴9年目で「俺のシリーズ」を知り尽くした人物である。デリカテッセンはフレンチのみならずイタリアンの食材や技法を用い、「俺の焼肉」で使用している牛肉を使った料理、「俺の割烹」の料理長が滞在して和食メニューの監修を行うなど、店内手づくりで「俺のシリーズ」の集大成のような構成になっている。

 デリカテッセンのフードロス対策として「TABETE」というアプリを採用している。これは売れ残りそうになった食品を、このアプリを通してお客に発信していくものだ。「デリカテッセンが余りそうだな」と察知したらこのアプリにあげる。すると「TABETE」の会員が安く購入することができ、これを「レスキュー」と呼ぶ。大体定価1000円で販売していたものが680円程度となる。こうしてフードロスを回避するという仕組みである。このアプリで発信すると30分ほどで売り切れるという。

「俺のGrand Table」では前述のように既存店を代表するメニューがラインアップされている。価格も同様だが、ポーションは既存店のものより7割程度で構成している。例えば、ロッシーニの牛肉は既存店で180gだが、ここでは140gとしている。「個食需要が増えていること、またさまざまなメニューを楽しんでいただきたい」(神木氏)ということからこのようにしている。

 なかでも目を引くのは「トッピング300円」。トリュフ、フォアグラ、キャビアという高級食材を「当店スタッフオススメのトッピング例」として提案してメニュー化している。ラーメン店で煮卵やチャーシューをトッピングしてもらうような感覚で高級食材のトッピングが可能となる。神木氏は「俺のシリーズでは非日常的な体験をリーズナブルにできることが訴求されていてお客様に知られています。この感覚をこのような形で表現しました」と語る。これらでフードメニューの原価率は約60%となっている。

「ヴィーガンメニュー」を採用し顧客を広げる

「俺のGrand Table」の話題はもうひとつ「ヴィーガンメニュー」を採用していることだ。ヴィーガンとは完全菜食主義者のことである。ここでは「俺んちのサラダ~南部一郎のかぼちゃドレッシング~」780円、「【BEYOND TOFU】カプレーゼ」880円、「ヴィーガンハンバーグ」1280円の3つをラインアップしている。これらをメニュー化した背景について、神木氏はこう語る。

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1階の「俺のGrand Market」はデリカテッセンとセレクトショップ融合している。(俺の株式会社提供)
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2階の「俺のGrand Table」は「俺のシリーズ」の集大成となっている。(俺の株式会社提供)

「俺のシリーズは『高級料理をリーズナブルに』という顧客イメージが根強くありましたが、この立地柄から国際的な視野も踏まえて、環境保護であったり、世界が取り組んでいることをしっかりと企業として発信していこうとなりました。そこでヴィーガンの料理もさることながら、1階のテイクアウトの包材も、なるべく脱プラスチックを使用しています」

 ヴィーガンメニューの反響はどうだろうか。

「ヴィーガンの方々のコミュニティの結束力の強さとアンテナの高さを感じました。スタート時は1日1~2食程度でしたが、コミュニティで情報が早く広がり、平日で5食程度、土日で10程度が提供されて、想定していた数量と比べるとかなり多いです」

 ヴィーガン向けミートのメーカーは数あるが、そのなかで同店がメニューとして選んだ基準は「大豆臭が少ない」「肉に近い触感が得られた」ということ。そして、フレンチ、イタリアンにとって野菜の風味や甘味を邪魔することがなく調理しやすいミートであることだった。

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「ヴィーガンハンバーグ」1280円によってベジタリアン・ヴィーガンの顧客から注目されるようになり、レストランとしての発信力が強くなった。(筆者撮影)

 神木氏はこう語る。

「ヴィーガンメニューをラインアップするということは、ヴィーガンの人も一般の人も同じテーブルで食事を楽しむことができるということです。当店にはヴィーガンのフードメニューのほかにヴィーガン認証のワインもあります。ヴィーガンだから『これしか食べられない』というため息をつくような感覚ではなく、『食とはもっと楽しいものだ』ということを、われわれの調理や接客をもって伝えていきたい」

俺のGrand Table」のメニューは今後ブラッシュアップされていくが、これからインバウンドが戻ることを想定して、フードダイバーシティ(食の多様性)が国内需要以上に増えていくことから、メニューブックのなかに「ヴィーガン」のカテゴリーを設けて、5~6品目程度で構成することも想定している。また、既存店でもヴィーガンメニューを導入することを検討している。

 オープンして2カ月が経過した「俺のGrand Market」「俺のGrand Table」であるが、客単価は「俺のGrand Market」が2000円弱、「俺のGrand Table」はランチタイム2000円程度、ディナータイムは3000円台後半となっている。

 客数は昨年12月の場合、1階と2階を合算して平日800人、土日1000人を超えていた。比率は1階が6に対して2階が4、緊急事態宣言を受けてから、平日400~500人、土日は700人後半(8対2)となっている。このように俺のシリーズの新業態では、しっかりと衛生対策をとりながら営業を進めている。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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