出版業界の不況が叫ばれるようになって久しい。出版市場を調査している出版科学研究所によると、2016年の書籍と雑誌を合わせた推定販売金額は、前年比3.4%減となる1兆4709億円で、12年連続で前年を下回る結果となった。
そんななか、10月13日に開催された「全国図書館大会 東京大会」において、文藝春秋の松井清人社長が図書館側に対し、「文庫の貸し出しをやめてください」と要望を出し、賛否を呼んでいる。
出版社、図書館ともに文庫本の貸し出しには消極的
そこで、松井氏の発言について、全国図書館大会に参加した出版業界関係者に話を聞いた。
「松井社長の訴えには、2013年から16年までの4年連続で文庫本の売り上げが減少したという背景があります。13年は2.5%減程度でしたが、14年から16年は年6%以上も売り上げが落ちているのです。販売が伸びない状況のなか、図書館が文庫本を積極的に貸し出しするケースや、文庫本の貸出率が全体の3割以上もある図書館のデータが今回の図書館大会で示されました。出版業界としては、消費者には文庫本のような安価な書籍は、借りるよりも購入してほしいということでしょう」
「文庫本の貸し出しをやめてほしい」という意見は文藝春秋以外の文芸出版社も賛同しているようだが、反対意見も多い。しかし、「図書館には文庫本を購入してほしくない」という思いは多くの出版社が共有しているという。
「専門書や児童書を主軸に据える専門出版社は、経営を図書館に支えられています。しかし、図書館がベストセラー本や文庫本を大量に購入すれば、限られた図書購入予算がそちらに取られて児童書や専門書に回すお金が減ってしまいます。また、実際にデータによって証明はできていませんが、文藝春秋や新潮社といった文芸系の出版社は、図書館が貸し出すことで、書店での販売部数が下がってしまうと思いこんでいます。皮肉なことですが、出版社全体としても、図書館が文庫本を購入することに対して、積極的に良しとは思っていないのです」(同)
一方、図書館側の考えはどうか。
「実は、図書館としても文庫本ではなく、ハードカバーの単行本を購入したいと考えているようです。というのも、文庫本のような廉価で簡易なつくりの書籍は、何度も借りられると破損しやすく、扱いにくいからです。同じタイトルの本ならば、文庫よりも単行本を買いたいと思っている図書館は多いのです。しかし、図書館は公共サービスの一環ですので、利用者から文庫本のリクエストがあれば、なかば従うしかないというのが実情です。さらに、最近は初めから文庫版で出版される作品も多く、そうした書籍は文庫本で買わざるを得ませせん」(同)
松井氏の発言は、出版社と図書館双方の本音なのかもしれない。しかし、インターネット上では「そもそも文庫本が売れないのは、電子書籍に取って代わられているからではないか」「(図書館に文庫を置かなくなれば)ますます読書離れが進む」といった声が上がっている。
「確かに、業界のなかでも電子書籍の登場で文庫が売れなくなってきているという見方はあります。しかし、振り返れば電子書籍が登場する以前から、ブックオフなど中古書店の問題がありました。もちろん、多少の影響はあるのでしょうが、文庫不振の原因のすべてが電子書籍とはいえないでしょう。ただ、読書離れに関しては、もしかすると当たっているのかもしれません。図書館から文庫本が消えれば、接する機会が奪われることになりますからね」(同)