地方の中核都市であっても、駅前はシャッターが下りたままの店舗が多く、歩く人も少ないという光景をよく見かける。仕事柄、大都市の取材が多い筆者だが、何年かぶりに地方中核都市を訪れると、以前より空き店舗が増え、老朽化が進んだ建物を目の当たりにすることも多い。
だが、さまざまな取り組みで成果を上げている街もある。そのひとつが、茨城県ひたちなか市だ。人口約15万6000人の同市は、日立製作所の関連施設も多い工業都市と、漁業都市の側面を併せ持つ。阿字ヶ浦、平磯、那珂湊と続く海沿いには、漁業協同組合や加工団地もある。
玄関口であるJR勝田駅前の空洞化に伴う再開発なども行い、「現実」と向き合いながら、「地域資源」の掘り起こしや「課題」を洗い出し、地域活性化を進めてきた。一連の取り組みは、日本商工会議所から何度も表彰を受け、他の自治体・地域関係者の視察も絶えない。そんなひたちなか市が、10月10日に発表された都道府県の魅力度などをランキングする「地域ブランド調査2017」(ブランド総合研究所)で5年連続最下位の茨城県にある、というギャップも興味深い。
今回は10月中旬のイベントを紹介しながら、取り組みの成果や残された課題を説明しよう。現状に悩み、解決策を模索する地方や企業、そこで働く従業員のヒントとしたい。
伝統的な港祭りを「タコ」で強化
10月15日の日曜日、「みなと産業祭」が同市の那珂湊魚市場で行われた。今年で33回目となる歴史の長いイベントで、漁港らしく茨城名産「あんこうの吊るし切り」「さんまのつかみ取り」のほか、魚介類や干しイモ、焼き鳥や野菜、ブランド卵などの即売会もあった。神輿も繰り出し、地元小学生のダンスもあるなど多彩な内容だった。
これだけなら国内各地で見かける“秋のお祭り”だが、目玉は6回目を迎えたイベント「世界タコ焼きグランプリ」と「世界オクトパス級チャンピオン決定戦」だ。前者は屋外に設置された屋台でつくられるタコ焼きで、各店が世界各国の味で勝負する。必ずしもタコ焼き専門店ではなく、レストランやカフェがイタリア風やメキシコ風など、独自の味で参加者に提供し、投票で競い合う。ご当地グルメの一大イベント「B-1グランプリ」をタコ焼きに特化させた縮小版といえよう。ちなみに入場料は300円だ。
後者はタコの本場・兵庫県明石市にひたちなか市が挑んだイベントで、「真ダコ水揚げ日本一・明石」と、「タコ加工高日本一・ひたちなか」のキャッチコピーを掲げたもの。レフリー・リングアナウンサーは吉本興業所属の芸人・オスペンギンが務め、ラウンドガールはひたちなか親善大使のひとりである冨田夏奈さんだった。明石市の職員・大久利正明氏(同市シティーセールス課所属)も着ぐるみ姿で舞台に上がった。
審査員3人は、ひたちなか市長、ひたちなか商工会議所会頭、魚のおいしいひたちなか推進協議会会長という、完全なホームタウンディシジョンだ。白石義則氏(明石側料理人)、千葉信一氏(ひたちなか側料理人)がつくった「刺身対決」「揚げ物対決」「駅弁対決」の3回戦を行い、ひたちなかが辛勝した。2016年のB-1グランプリ日本一に「あかし玉子焼」(明石焼)で輝いた明石にとって、相撲でいう出稽古で胸を貸してやったようなものといえるだろうか。
ひたちなかが、ここまでタコを強化するのは、地域資源の掘り起こしの“鉱脈”だった。