「よそ者」と「地者」が本気になる
少子高齢化が進み、商店街が疲弊する地方は多い。人口は減っていないひたちなか市も例外ではなく、2001~02年をピークに全体の「小売業商店数」「売り場面積」「従業者数」は3~4割減となった。「商業年間販売額」は最盛期の数パーセント減なので、大型店の出店で中小商店に影響が出ていることになる。
同市が興味深いのは、「昔はよかったと嘆き『ないものねだり』をするのではなく、『あるもの探し』をしよう」と調査結果に向き合い、商工会議所が主導となって「まちづくり株式会社」を設立したことだ。社長には会議所会頭ではなく、地元で長年商売を営み、行動力のある写真館店主の小野修氏(株式会社小野写真館・会長)が就いた。
よく、「地域活性化は『よそ者・若者・ばか者』が行う」と言う。「従来の常識にとらわれない人」といった意味だが、地方創生の専門家からは「当てはまらない例も多い」との指摘もある。ひたちなか市の場合、今回紹介した会議所会頭の父親は東京都生まれ、本人は勝田生まれだ。市長は新潟県生まれの石川県育ち。推進協議会会長やまちづくり会社社長は地元出身だ。「よそ者と地者(地元出身者)が指摘し合い、一緒に本気になった」事例といえよう。
ひたちなか市は「親世代の6割が他地域の出身」と聞く。同市出身で県立水戸第一高校を卒業したビジネス誌『プレジデント』(プレジデント社)編集部・面澤淳市氏は、次のように指摘する。
「勝田は、戦前に日立製作所が大規模な土地を買収して工業都市化が進んだ街。近隣に日立グループ企業や原子力関連の研究施設が立地し、全国からの流入が多いので、住民気質は県庁所在地の城下町・水戸に比べて自由で、コスモポリタンな雰囲気がある」
市長になる前、茨城県庁職員時代の本間氏も「かつた祭り(市民祭り)を若者たちが始めた当時から、勝田地区の住民力は高かった」と述懐する。冒頭で紹介した「世界オクトパス級チャンピオン決定戦」の中身も、いい大人が“ばか者”になって取り組んだ企画だろう。
一過性のイベントだけでは打ち上げ花火に終わってしまう。市では、タコを起爆剤として「魚のおいしいまち ひたちなか」を掲げる。“魚食離れ”を食い止める息の長い取り組みだ。会場でタコ焼きを焼く出店者の腕も年々上達したというが、まずはやり続けること。「当事者意識を持って必死で取り組まないと、街の活性化はできない」のだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。10月28日に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)が上梓された。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。